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	<title><![CDATA[  初稿置き場  ]]></title>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　研究所を出て、寮までの帰り道を辿る。<br />
　ファルは、隣でじっと黙ったままのレンの横顔に目だけで視線を向けた。<br />
　鞄の肩紐をきつく掴み、俯き加減で歩を進める彼が何を考えているのか、全く分からない。<br />
　普段あっけらかんとして素直な人柄だからこそ、その何も読み取れない表情が、酷く心を落ち着かなくさせる。<br />
　ファルはレンから視線を外し、彼とエルジュの会話を反芻する。<br />
　所長からの伝言を聞いた時の強張った表情を見れば、レンが「研究者になること」へ迷いを感じているのは明らかだった。<br />
　ファルはきゅっと唇を噛んだ後、意を決して口を開いた。<br />
「なあ、レン」<br />
「……ん、あっ？　なに？」<br />
　思考の海から急浮上したような表情に、ファルは気付かない振りをして、なんでもないように聞こえるよう軽い調子で続けた。<br />
「夏季休暇、まだ暫く続くだろ？　今年はアカデミーも最終学年だし、近々帰省してこようと思うんだ」<br />
「あー、たしかファルのご両親って、今王都を離れて郊外に住んでるんだっけ」<br />
「ああ、そうだよ。……それでさ、レン」<br />
「ん？」<br />
　不思議そうに首を傾げるレンの方へ向いて言った。<br />
「もしよければ、なんだけど。一緒に……来ない？」<br />
「え？」 -- Posted by 桜 〔546文字〕 No.110 ]]></description>
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	<pubDate>Sat, 14 Mar 2026 12:58:47 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　記念墓地の慰霊訪問が終了し、一行は一度研究所へと戻った。<br />
　だが、後は今後の――提出物などの諸注意を聞いた後は、体験入所が終了。解散となる流れだ。<br />
　レンは帰る準備をしながらも、小さく溜息をついた。<br />
　みな既にちらほらと帰途へつき、現在部屋にはレンとファル、それからエルジュしかいなかった。<br />
「レン、そろそろ施錠しますので」<br />
「あ、すみません！」<br />
　エルジュの言葉に慌てて鞄を背負い、ファルと共に扉を潜る。<br />
　最後に退室したエルジュが鍵をかける音を聞きながら、彼に一言感謝を伝えようと足を止める。<br />
「――レン」<br />
　だが振り向いたエルジュが口を開く方が早く、レンはぽけと口を開いたまま目を瞬かせた。<br />
「所長からの伝言です。『この数日で君の熱意はよく伝わった。もし君がここを受けるのならば、我々は歓迎する準備を整えている』とのことです」<br />
　それは事実上、内定が約束されたも同然の言葉だった。<br />
　きっと少し前までのレンならば、飛び上がって喜んだはずだ。<br />
　だが、何故か心はもやもやとして晴れないまま、小さく頷いた。<br />
「……はい」<br />
　よろしくお願いします、と言えばいいはずなのに。それで、長い間抱いてきた夢が叶うのに。<br />
　だが、どうしてもそれ以上の言葉が出て来ない。<br />
　そんなレンにエルジュは、少し目を細めた。<br />
「それと……、ここからは私個人から、ですが――」<br />
　レンは俯いていた顔を上げる。目が合って、エルジュが続ける。<br />
「研究者を続けていれば、今回のようなことは発生します。もし抱えきれない……というならば無理をする必要はない、と考えます」<br />
「…………はい」<br />
「ですが、レン。私は貴方が良き研究者になれるとも感じていますよ」<br />
　エルジュが淡く微笑んだのに、レンは瞠目する。<br />
　レンが何も答えられずにいると、エルジュが続ける。<br />
「さあ、後は自分で答えを出すことです。――また会いましょう、レン」<br />
　レンは困惑を覚えたまま、去っていくエルジュの背中を見送るしかできなかった。 -- Posted by 桜 〔869文字〕 No.109 ]]></description>
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	<pubDate>Sat, 14 Mar 2026 11:56:14 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　記念墓地まで辿り着いた一行は、ここの管理人から話を聞き、その後記念碑が並ぶエリアへと足を踏み入れていた。<br />
　ファルはゆっくりと石碑の間を歩きながら、小さく息をついた。<br />
　いつもは祖父母の名前が刻まれた場所まで一直線に向かうため、違う道を通るのは少し景色が新鮮に映る。<br />
　また、いつ訪れてもあまり人気のないこの場所に、何人もの人影が見えるのも不思議な気分だった。<br />
　ファルはレン以外の体験入所者が物珍しげに石碑の間を散策するのを、少しばかり羨ましいような悲しいような気持ちで見つめる。<br />
　アカデミーの通常課程中に授業の一環で一度は訪れているはずだが、「普通」の国民にとっては、あまり来ることのない場所だ。<br />
　そういう生い立ちを持てたことが、ほんの少しだけ羨ましかった。<br />
　その時、そっと傍に気配を感じて振り返る。<br />
「……エルジュさん」<br />
「ファル、体調はどうです。きちんと眠れていますか？」<br />
　思わぬ質問に首を傾げながらも頷く。<br />
「え？　ええ、はい」<br />
「なら良かったです。繭の解剖にはショックを受ける人もいます。貴方も顔色が良いとは言い難かったので」<br />
　たしかに今回のようなことがなければ、そうそう解剖――それも羽化に失敗した被験者の肉体を見ることはない。人によってはトラウマになることもあるのだろう。<br />
　特に一見には<ruby class="decorationR">解<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">剖<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">の<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">様<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">子<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">に<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>ショックを受け、途中離脱したように見えただろうから、心配ももっともだった。<br />
「大丈夫です。そういう意味では、もう気にしていません」<br />
「そうですか」<br />
「あ、でも……」<br />
　所員でもない人間が聞いてもいいことなのかと言い淀むファルに、エルジュは続きを促すように小首を傾げた。<br />
「あの時亡くなった繭は……、その後どうなったんですか？」<br />
　あの様子を見て、まさか「そのまま打ち捨てられている」とは思わないが、それ以外にどうなるのか見当もつかず、おそるおそる訊ねる。<br />
　だがエルジュは、そんな事かとでも言うように軽く目を瞠って、記念墓地の奥へ視線を向けた。<br />
「通常はご家族の元へお返ししますが……。身寄りのない場合は、事前にご本人と話し合いをします。今回の場合ですと、一定期間引き取り手が現れないことを確認した後、あそこの合祀墓へと埋葬される手筈です」<br />
　ファルもエルジュの視線を追って、花で溢れたその墓を見る。<br />
　元々、この国までの亡命中に命を落とすなどして、遺体もしくは骨となって辿り着いた蝶の民を埋葬する場所だったと聞いている。<br />
　今はそういった人々も一緒にいるのだと聞いて、寂しくなくていいのかもしれないな、と思う。<br />
「……ちゃんと、人として扱ってくれるんですね」<br />
「当たり前でしょう。そもそも、こちらの手が及ばず死なせてしまった方でもあるんです。せめて最期くらいは最大限丁重に扱わなければ……」<br />
「そうですよね」<br />
　当然、という顔で言うエルジュに、どこかほっと力が抜けた。<br />
　レンも彼らと肩を並べていくのだと思えば、それがとても嬉しい。<br />
　ファルはふと視線を巡らせて、レンの姿を探す。<br />
「あ……」<br />
　彼はいつも訪れるファルの祖父母の名前を前に、じっと立ち竦んでいた。<br />
「……エルジュさん」<br />
　エルジュが目を瞬かせる。<br />
「レンは……、研究者になりますよね……？」<br />
　エルジュがレンの姿を捉え、目を眇めた。<br />
「……それは彼次第でしょう」<br />
　彼の返答は曖昧だった。<br />
　それは、入所への面接や試験について言っているのか、それともレンの心の内についてを言っているのか――。<br />
　もしもレンの目標が変わってしまったのなら、ファルはきっとそれでも彼の選択を尊重するだろう。<br />
　けれど――、もし、自身の過去やそれを吐露したことが、夢を叶えることを躊躇わせているのだとすれば……。<br />
　それは耐え難いほどやり切れない。<br />
　ファルはきゅっと拳を握って、レンの沈んだ横顔を見つめるのだった。 -- Posted by 桜 〔1636文字〕 No.108 ]]></description>
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	<pubDate>Fri, 13 Mar 2026 13:37:49 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　いつもはレンと二人で歩く記念墓地までの道を、今日は大所帯で辿る。<br />
　ファルは吹き抜ける冷たさの混じる風に目を細めた。<br />
　先導する研究所の所長だという男の後をついて歩きながらも、彼の声は耳を素通りしてゆく。<br />
　蝶の民研究所の体験入所――最終日。<br />
　研究所の所員たちと共に、ファル、レン、そして残りの体験入所者三人は、王都の外れにある記念墓地に訪れていた。<br />
　研究者という道を選ぶのなら、決して避けては通れない、非道な研究の犠牲となった人々についての話。それらを訥々と語る所長の言葉を聞き流しながら、空を見上げる。<br />
　実際その「非道な研究」が行われていた現場にいた過去を持つファルとしては、彼の言葉はやはりどこか現実感に欠けている。<br />
　実際に経験したことではないから当然といえば当然だろう。<br />
　それに今のファルには、それ以上に気にかかることがあった。<br />
　隣へチラと視線を向ける。<br />
　普段ならば真剣な顔で、それらの言葉を聞いているであろうレンのことだ。<br />
　だが彼もどこか上の空な様子で、だが同時に深く思い悩むような表情もしている。<br />
「……、」<br />
　ファルはそんな彼に声をかけようか迷って、やはり口を閉じた。<br />
　こうして口を噤むのも、レンが思い詰めた表情をしているのも今にはじまったことではない。<br />
　死亡した繭の解剖を見た日――いや、ファルが過去を語ったあの時から、もうずっとその表情が晴れないのだ。<br />
　やっぱり僕のせいだろうか――。<br />
　ファルはそんな罪悪感にチクチクと蝕まれている。<br />
　今彼が何を考えているのかは、何度も聞こうとして聞けず、正確なところは分からない。<br />
　だが、その表情が曇るきっかけとなったのは、間違いなくファルが過去を吐露してしまったせいだろう。<br />
　はじめは、「ファルを体験入所に誘ってしまった」とでも後悔しているのかと思っていた。だが、彼の誘いを受けたのも、解剖に立ち会うと決断したのもファル自身だ。レンを責めるつもりもないし、彼がもし謝罪でもしてこようものなら、そう伝えるつもりだった。<br />
　だが、沈んだ様子を見せるようになって一日が経ち、二日が経ち――、もしかするとレンが思い悩むのは違う点なのかもしれないと思うようになった。<br />
　それが「何」なのかまでは分からなかったが。<br />
　自分はレンの存在に、とても救われている。<br />
　繭の臭いを契機に蘇った記憶は、決して愉快なものではない。それでも、そのことについて一種の区切りが付けられているのは、あの日、あの時に、彼が傍でじっと話を聞いてくれたからだ。<br />
　そんなレンが悩みを抱えているのならば、自分も支えたいと思うのは当然だった。<br />
　だが不用意に訊ねてしまえば、「悩んでいる」ということすら隠されてしまうのではないかと怖くて聞けずにいる。<br />
「――レン、行こう。置いていかれそうだ」<br />
　自然と遅くなっていた歩調のせいで、前方を進む一行と、少しばかり距離ができていた。<br />
　ファルが声をかけると、レンがハッとしたように顔を上げる。<br />
「あ、そうだな。ごめん」<br />
　早足で歩きはじめた彼の背中を、ファルは見つめるしかできないでいた。 -- Posted by 桜 〔1323文字〕 No.107 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Wed, 11 Mar 2026 12:04:57 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　深夜。<br />
　碌に眠れぬまま目を覚ましたレンは、すやすやと寝息を立てるファルを横目に、部屋をそっと抜け出した。<br />
　あまりにも眠れないため、水でも飲もう――と思ったはずだったが、足は食堂の方ではなく外へと向かう。<br />
　通常課程の頃とは違い、門限も出入りの制限もあってないような上級課程の寮は、まだ人の気配がする。<br />
　建物の外まで出て上を見上げれば、一つ二つ、まだ明かりのついている部屋が見えた。<br />
　今のレンのように眠れない人がいるのか、それとも逆に寝落ちしてしまったまま、消灯していないだけだろうか。<br />
　そんなことを考えながら、寮の周囲をゆっくりと歩く。<br />
　今日は本当に色々なことがあった。<br />
　死にかけた繭を救い、解剖を見て――、<br />
「っ……」<br />
　耳にファルの叫びが木霊する。<br />
　レンは無意識に足を止め、俯いて唇を噛んだ。<br />
　あの後、一通り吐き出せたからか随分すっきりした様子のファルと共に、所員への挨拶だけをしてすぐ帰宅した。<br />
　彼らは自分たちが解剖にショックを受けたのだろうと考えてか、あまり気にしないようにと声をかけてくれた。<br />
　たしかに、覚悟が足りていなかったとレンは感じている。<br />
　だがそれは、所員たちが懸念した点についてではない。<br />
　……エルジュだけは何か思うところがあったのか、そういった声かけをすることはなかったが。<br />
　レンは小さく溜息をつき、暗い空をぼんやりと見上げる。<br />
　番号で呼ばれる実験体。非人道的な行為が常態的に行われる環境で生きていたファル。その心に刻まれた傷は、レンが想像しているよりも、ずっとずっと深い。<br />
　そして、同じような傷を抱える人々は、ファル以外にもこの国に沢山生きて、生活をしている。<br />
　ファルと共に定期的に訪れるようになった、他国で犠牲となった蝶の民を弔う記念墓地の光景を思い出す。<br />
　あそこに刻まれる名前は、今もなお増えているのだ。<br />
　蝶の民の研究者になるということは、彼らと、今生きる人々の思いを受け止め、共に未来へ繋いでいくということ。<br />
　その、覚悟がなかった――。<br />
　レンには彼らの気持ちを真に理解できる日は来ない。ましてや、自分は「蝶の民」ですらない。<br />
　俺が軽々しく踏み込んでいい世界なのだろうか……。<br />
　憧れだけではままならない。<br />
　その現実がレンを深く思い悩ませていた。 -- Posted by 桜 〔996文字〕 No.106 ]]></description>
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	<pubDate>Wed, 04 Mar 2026 12:07:51 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
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<br />
　建物の外に出たレンは、座れる場所を探して視線を巡らせた。<br />
　丁度、裏手の方にベンチを発見して、ファルを座らせると自分も隣に座る。<br />
　黙って俯いたままのファルの背を、空いた手でそっと撫でる。<br />
　そうしていると、少しずつ握り締める力が緩んでくるのが分かった。<br />
「……大丈夫か？」<br />
　そっと声をかけると、ようやく彼の顔がゆっくりと上げられて、こちらを向く。先程の虚ろな目で派なくなっていることにほっとしながら、レンは背を撫で続けた。<br />
　ファルはレンの言葉には答えず、すっと遠くの空を見る。<br />
「――同じ、牢にいたおじさんだった」<br />
　唐突に話しはじめたファルの言葉を、レンは黙ったまま頷いて続きを促す。<br />
「名前は知らない。あそこじゃ、番号で呼ばれるのが普通で……八十六って呼ばれてた人だった」<br />
「……うん」<br />
「優しい人でさ。僕も、大好きだった。でもある日、帰ってこなくなった」<br />
　ファルは坦々と続ける。<br />
「一週間経って、二週間経って……。きっと殺されてしまったんだ、って諦めた。急に人が消えるのも、普通のことだったから」<br />
　言葉を切ったファルは、上げていた顔を伏せて続けた。<br />
「その日、連れていかれた部屋で……、<ruby class="decorationR">あ<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">の<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">臭<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">い<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>がしたんだ」<br />
　レンは、背を撫でる手を思わず止めてしまった。<br />
「そこには筋肉と骨が露出した『何か』があった。かろうじて大人の人間なのはわかったけど、表皮は全部溶けてて、誰かなんて分かったもんじゃない。――分からない方が、よかった……っ」<br />
　握られた手に、再度力が籠る。<br />
　レンはかける言葉が見つからないまま、ファルの叫びを聞くしかなかった。<br />
「あの『肉塊』を、奴らは八十六番って呼んだんだ……！！」<br />
　指の骨が砕けるんじゃないか、と思うほど強い力で手が握り締められる。<br />
　痛かった。けれど、ファルの心を襲っているであろう痛みに比べれば、どれほどのものだろうかとも思う。<br />
「……ファル」<br />
　背に回した手で彼の肩を引き寄せ抱きしめる。<br />
「ごめんな」<br />
　軽い気持ちで彼の傷を抉るような場所に誘ってしまったことへの謝罪だった。<br />
　自身の肩に彼の頭を引き寄せて、そのまま髪を撫でる。<br />
　今できることが、これくらいしか思い浮かばなかったからだ。<br />
　ファルは空いた手をレンの背に回して、ぎゅっと縋りつくように服を掴んだ。<br />
　そして、ぽつりと言う。<br />
「レンが謝ることじゃないだろ……」<br />
「……そーだな」<br />
　それでも握り締められた手も、抱擁も、解かれることはなかった。 -- Posted by 桜 〔1070文字〕 No.105 ]]></description>
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	<pubDate>Tue, 03 Feb 2026 00:10:59 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
<a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6%5f%e4%ba%8c%e7%ab%a0" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶_二章">#夢見る少年と未羽化の蝶_二章</a> 13</span><br />
<br />
　レンたちは研究所の奥へ奥へと向かうエルジュの後をひたすら追っていた。<br />
　初日の案内では訪れなかった区画で、薬品のような何かの臭いがする。<br />
　渡されたマスクと髪を覆う帽子とを身に付け、そこに白衣を纏ったエルジュについて、ようやく解剖室へと辿り着く。<br />
「戻りました」<br />
　そう声をかけて入室したエルジュに続き、レンはそろりと中へ足を踏み入れる。<br />
「っ……」<br />
　マスク越しにも感じた臭気に息を飲む。腐臭にような、それでいて微かに甘みのある――嗅いだことのない臭いだった。<br />
「これ……」<br />
「羽化に失敗した繭の、中身の臭いです」<br />
　エルジュが囁き声で説明をする。彼に、こちらへと促されて、部屋の中央へと足を向けた。<br />
　そこには人ひとりが乗りそうな台と、それを囲むように三人の所員がいた。<br />
「……？　他のみんなは……」<br />
　レンの疑問に所員の一人が首を振った。どうやら、立ち合いをせずに帰ったようだ。<br />
　だが、台に乗せられた人物を見た時、レンは彼らの選択が正しい、と思ってしまった。<br />
「――っ！」<br />
　思わず口元を手で覆って、飛び出しかけた悲鳴を飲み込んだ。<br />
　頭と、胴体は、確かに人のそれだ。そこだけ見れば眠っているだけのようにも見える。<br />
　しかし、その手足は――、途中で溶けて消えてしまったかのように無くなっている。右腕は肘まであるが、その先は筋肉と骨が剥き出しで、手首から先がない。左腕は肩の付け根から存在せず、右足は膝まであるものの、中の骨や肉が未形成なのか、重力に従って半液状のように広がっている。左足は足首から先が無かった。<br />
「繭の中では、生命維持器官以外が溶ます。そして、再び肉体が形成される際は、脳や内臓といった場所から再構築されるんです」<br />
「ああ、だから手足が……」<br />
　人間の肉体にとって重要な器官から再構成され、その後に四肢が形成される。だから、その過程で死んでしまった蝶の民は、このような状態になるのだろう。<br />
「――では、はじめましょうか」<br />
　所員の一人が口を開き、黙祷をはじめる。レンもそれに続いて、目を閉じた。<br />
　暫しの沈黙が過ぎレンが目を開くと、台の傍にいた人々もぱらぱらと動きはじめていた。<br />
　手術で使うようなメスと鉗子、それからハサミのようなものが主な道具のようだ。<br />
　レンは邪魔をしないように一歩離れて、解剖の様子を見守る。<br />
　体表の状態などの記録を取った後は、メスが胸部や頭蓋を通り、中身が露出していく。所員はそれらを観察し、何かの長さを測ったり、細々と何かを書き付けていた。<br />
　レンはもちろん、通常の人間の解剖も見たことはないので、どこが違っていて、どこが同じなのかもよく分からない。だが、ふと疑問を覚えて隣でついていてくれるエルジュに、声を潜めて問いかけた。<br />
「あの……、骨とかってどうなってるんです？」<br />
　ただの小さな薄い刃物でしかないメスが頭蓋骨を割き、小さなハサミが肋骨を切断する様子は、素人目にも異様だ。<br />
　切れ味がすごくいい魔導具？　いや、というよりも――<br />
「なんか、すごく柔らかそうに見える、というか」<br />
　レンがそう言うと、エルジュが頷いて答える。<br />
「その通りです。羽化前の肉体は、平常時より脆く壊れやすい。骨も羽化寸前まで、殆ど強度がないんですよ」<br />
「へぇ……」<br />
　蝶の民はあらためて不思議な生態をしているな、と思う。<br />
　彼らの羽化を「生まれなおし」などとも表現することはあるが、母体の胎内で行われる肉体の形成とは、まるで違うもののようだ。<br />
　その時、鉗子の一本が所員の手から滑り落ち、カシャンッと耳障りな音を立てて床にぶつかった。<br />
「っ！？」<br />
　その音と同時に、後ろから手を掴まれて、レンはビクッと肩を跳ねさせた。<br />
「いっ、……ファル？」<br />
　強い力で掴まれ、小さく呻きながら背後を振り返る。<br />
　俯いた彼の顔を覗き込む。<br />
「ファル……？」<br />
　顔色が先程よりも悪い。瞳孔が開いていて、焦点が合っていなかった。<br />
　なのに、手を掴む力だけは強く、まるで……助けを求めているようだと感じてしまう。<br />
　レンはきゅっと唇を噛むと、顔を上げた。<br />
「すみません。俺たち、少し外の空気を吸ってきます」<br />
　ファルの手を引いて、部屋を出る。<br />
　どうしてここにファルを連れてきてしまったんだろう。<br />
　そんな後悔をしながら。 -- Posted by 桜 〔1803文字〕 No.104 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 03 Feb 2026 00:09:37 +0900</pubDate>
</item>
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<item>
	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
<a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6%5f%e4%ba%8c%e7%ab%a0" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶_二章">#夢見る少年と未羽化の蝶_二章</a> 12</span><br />
<br />
　レンたちは羽化した少年を医師へと引き継いだ後、ようやく外へと出た。<br />
　一時は生存も危ぶまれた少年だったが、今のところ大きな問題もないようだった。正確なところはこれからはっきりするだろが、エルジュによると、身体に機能面の障害が発生しているならば、既に分かる形で出ていることが多いらしい。<br />
　つまり、ひとまずは安心して良いとのことで、レンもファルもほっとしていた。<br />
　少年の家を出たあと、エルジュがすぐに通信用の魔導具で研究所と連絡を取りはじめた。小型の通信装置はまだまだ高価なものなのだが、こういった不測の事態に備えて、外回りの際には携帯を義務化されているようだった。<br />
「――ええ、はい。彼は無事……、はい。はい……、え？」<br />
　エルジュの視線がこちらを向き、レンとファルは顔を見合わせる。<br />
　程なくして通信を終わらせたエルジュに、レンが問いかけた。<br />
「あの、何かありましたか？」<br />
「ええ……。……先程、研究所にてお預かりしていた繭が一人、亡くなられました」<br />
「――っ！」<br />
　蝶の民にも、遺伝病のようなものと言えばいいのか、家系的に羽化時に問題が発生しやすい血筋の者がいるらしい。そういった人々の中には生存率を上げるために研究所内での経過観察を望む場合があるという。そんな幾人かの内の一人が亡くなった、という報告だった。<br />
　レンたちが言葉を失っていると、エルジュが静かに口を開いた。<br />
「魔素の影響なのか……、こういった異常が同時に発生することは稀にあります。先程の彼は助けられましたが――、手を尽くしても力が及ばないこともあるのが現実です」<br />
　エルジュは通信の魔導具を鞄にしまってから、レンたちを順に見た。<br />
「これから、死亡した被験者の解剖が行われます」<br />
　隣でファルがひゅっと息を飲んだ。<br />
「レン、貴方は入所を希望していましたね？」<br />
「は、はい」<br />
「所長が体験入所者の立ち合いを許可しています。今後、貴方が研究者の道を進むのならば、見ておくべきかと」<br />
「――はい」<br />
　羽化できずに死んでしまった被験者を見る――。そのことに、恐怖を感じないわけではなかった。<br />
　だが、エルジュの言う通りだ。目を逸らすべきではない。<br />
　レンがしっかりと頷くと、エルジュが頷き返してから、今度はファルの方を見た。<br />
「ファル」<br />
「…………はい」<br />
　彼は見るからに青褪めていて、顔色が悪かった。<br />
「これは、体験入所のプログラムには含まれていません。立ち合いを希望しないのであれば、ここで帰っても何も問題ありませんよ。……どうしますか」<br />
「ファル……」<br />
　レンの名を呼ぶ声も聞こえていないのか、ファルは青い顔のままエルジュを見ていた。<br />
　このまま帰った方がいいのではないか。<br />
　レンはそう思ったが、ファルは不意にぎゅっと目を閉じて息をはくと、再び顔を上げた。<br />
「……行きます」<br />
　エルジュの目が少しだけ見開かれる。彼もレンと同じく、帰宅を選択すると予測していたのだろう。<br />
　だが、ファルの覚悟をした目を見て、二度は聞かなかった。<br />
「わかりました。では二人とも、戻りましょう」<br />
　足早に研究所への道を戻るエルジュの後を追う。<br />
　レンはファルに何も声をかけられぬまま、無言で歩を進めるのだった。 -- Posted by 桜 〔1366文字〕 No.103 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 03 Feb 2026 00:08:19 +0900</pubDate>
</item>
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<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 分岐２－Ａ ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> 分岐２－Ａ</span><br />
Ａ：「じゃあ、部屋で刺繍でもしているわ」<br />
<br />
<br />
//背景：主人公部屋・夕<br />
<br />
マリアはオリヴィエの用意してくれた刺繍に取りかかった。<br />
感嘆されるほど上手くもなければ、何を刺しているか分からないほど下手でもない、いたって普通の腕前だが、ぼんやり考え事をするには、丁度いい。<br />
季節に合わせて、落ち葉でも刺そうかと、橙色の糸を手に取ったところで、エゼルが茶器を持って、部屋に入ってきた。<br />
<br />
マリア「ありがとう、エゼル。昼間はほとんど残してしまってごめんなさいね」<br />
エゼル「いえ。お嬢様の責任ではございませんので」<br />
<br />
それきりエゼルは黙ってしまったが、今はその沈黙が妙に心地よかった。<br />
茶を注ぐ音が止まり、そっとカップが傍に置かれる。<br />
マリアは、退室しようとするエゼルの背中に声をかけた。<br />
<br />
マリア「ねぇ、エゼル」<br />
エゼル「はい」<br />
<br />
彼が足を止めて振り返る。<br />
<br />
マリア「私、王太子殿下と婚約したの」<br />
エゼル「はい」<br />
マリア「知ってた？」<br />
エゼル「はい」<br />
<br />
坦々とした返答に、マリアはどこか落ち着かないものを感じて、問いを重ねた。<br />
<br />
マリア「皆、知っていたのかしら」<br />
エゼル「『皆』が、どの範囲を示すのかは分かりませんが、おそらく」<br />
マリア「……お父様も、以前から知っていらっしゃったのよね」<br />
エゼル「家長である旦那様がご存じないとは考えられかねます」<br />
マリア「そうよね……」<br />
マリア「どうして、教えてくれなかったのだと思う……？」<br />
エゼル「…………」<br />
<br />
エゼル<br />
「旦那様のご配慮かと。確定事項でないことをお耳に入れて、お嬢様を混乱させたくなかったのでは、と愚考いたします。旦那様は……、お嬢様のことを、大切に思っていらっしゃいますから<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２－１</span><br />
Ａ：「そうだと……、嬉しいわね」<br />
Ｂ：「……そうかしら」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２－１－Ａ</span><br />
Ａ：「そうだと……、嬉しいわね」<br />
<br />
<br />
エゼル「きっと、そうです」<br />
<br />
マリア（今、エゼルが笑った……？）<br />
<br />
//エゼル：通常<br />
<br />
マリア（気のせい、かしら……？）<br />
<br />
珍しい彼の表情に、呆然としていたマリアは、自分が針を持っていたことを忘れてしまっていた。<br />
<br />
マリア「――――いっ！」<br />
<br />
思い出したのは、指先に鋭い痛みが走った後だ。<br />
<br />
エゼル「お嬢様！」<br />
マリア「え……」<br />
<br />
//スチル：執事ルート分岐前（血の滲んだマリアの指先に、ハンカチを当てるエゼル）<br />
<br />
マリア「あ、あの、エゼル……」<br />
<br />
彼があんな声を出したのを聞いたのは、初めてかもしれない。指先にぷくりと浮かぶ血よりも、そちらの方に驚いて、固まってしまう。<br />
<br />
エゼル「失礼いたしました。すぐに手当てを」<br />
<br />
エゼルはサッと立ち上がると、手当ての道具を持ってくると言って、部屋を立ち去った。<br />
<br />
マリア「……今日は、珍しいことばかりだわ」<br />
<br />
不思議なことをあるものだと、マリアはエゼルが戻ってくるまでの間、ぼんやりと彼が出て行った扉を見つめていた。<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２－１－Ｂ</span><br />
Ｂ：「……そうかしら」<br />
<br />
<br />
マリア「王太子妃なんていう荷の重いもの、私が嫌がるとでも思ったのではないかしら……」<br />
エゼル「…………、質問は以上でしょうか」<br />
マリア「え、ええ。ごめんなさい。呼び止めてしまって」<br />
エゼル「いえ。それでは、失礼いたします」<br />
<br />
立ち去っていくエゼルを見送り、マリアは小さく溜息をついた。<br />
<br />
マリア「もう少し、打ち解けてほしい……。そう思うのは、我儘なのかしら」<br />
<br />
マリアは一人になった部屋で、刺繍を再開した。 -- Posted by 桜 〔1447文字〕 No.102 ]]></description>
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	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?postid=102</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:26:00 +0900</pubDate>
</item>
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<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 政略結婚について ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> 政略結婚について</span><br />
<br />
//背景：主人公部屋・夕<br />
<br />
オリヴィエ「お帰りなさいませ、お嬢様」<br />
マリア「オリヴィエ……」<br />
<br />
自邸へと戻ってきたマリアは、オリヴィエの笑顔にほっとしたような、泣きたいような気持ちになる。<br />
<br />
マリア「みんな、今回のこと知っていたのね？」<br />
オリヴィエ「……そう、ですね。王太子殿下の想いに、気付いてらっしゃった方は多いかと」<br />
マリア「私、全く知らなかったわ……」<br />
オリヴィエ「お嬢様……」<br />
<br />
どこか、自分だけが置いて行かれたような。<br />
マリアはそんな気持ちでいっぱいだった。<br />
ハインからの言葉も、上手く呑み込めないままだ。彼の言葉は優しかったけれど、一言も「断っていい」とは言わなかった。<br />
王太子と公爵家の縁談。これは紛れもない「政略結婚」で、そこにマリア個人の意思は関係ない。<br />
<br />
マリア「…………」<br />
オリヴィエ「お嬢様」<br />
マリア「なあに？」<br />
オリヴィエ「王太子殿下との婚姻は……、お嫌ですか？」<br />
マリア「……！」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐１</span><br />
Ａ：「……仕方がないことよ」<br />
Ｂ：「正直に言うならば、嫌……なのかもしれないわ」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐１－Ａ</span><br />
Ａ：「……仕方がないことよ」<br />
<br />
マリア「だってそうでしょう？お父様が決めたことだもの」<br />
オリヴィエ「そんな……」<br />
マリア「いいのよ、オリヴィエ」<br />
マリア「それに、王太子殿下に望まれて嫁ぐことができるだなんて、きっと幸せなことだわ」<br />
<br />
それに彼は知らぬ相手でもない。誰とも知れぬ人間を夫にするよりは、よほど幸せになれるはずだ。<br />
ただ、自身の気持ちが付いて来ていない、というだけで。<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐１－Ｂ</span><br />
Ｂ：「正直に言うならば、嫌……なのかもしれないわ」<br />
<br />
マリア「だって、これまで一度だって、ハイン殿下のことを、そんな風に見たことがないのだもの……」<br />
<br />
よく考えれば、公爵家の姫として王太子に嫁ぐ、というのは特段奇異なことではない。<br />
だが、そのことを意識せずに来たのは、国王の妹――当時は王女だった母が、アシュフォード家に降嫁しており、マリアまで王家に嫁げば、この家があまりに王家と近くなってしまう、と危惧されていたからだ。<br />
しかしハインは、それを押してまで、自身を妃にと望んでくれた――。<br />
そのこと自体は「嫌」ではないけれど、これからどう変わっていってしまうのか、それが分からなくて、少し怖い……。<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐終了</span><br />
オリヴィエ「お嬢様……」<br />
<br />
オリヴィエ「そうです。少し気晴らしでもなさったらいかがでしょう？」<br />
マリア「そうね……」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２</span><br />
Ａ：「じゃあ、部屋で刺繍でもしているわ」<br />
Ｂ：「だったら、少し庭を散歩でもしようかしら」<br />
Ｃ：「でも今日は疲れたから、もう休むわね」<br />
<br />
オリヴィエ「わかりました。では、お支度を――」 -- Posted by 桜 〔1138文字〕 No.101 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?postid=101</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?postid=101</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:11:10 +0900</pubDate>
</item>
<!-- One Entry Data for RSS Feed -->
<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 オープニング4 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> オープニング4</span><br />
<br />
//背景：王宮・応接室・昼<br />
<br />
ウィルに連れられ、マリアが辿り着いたのは、国王の私的な応接室だった。<br />
扉の前でウィルと別れ、一人室内に足を踏み入れて、今に至る。<br />
<br />
マリア「アシュフォード公爵家が一女マリアが、国王陛下、並びに王太子殿下にご挨拶申し上げます」<br />
<br />
数年ぶりにこれほど間近で顔を合わせた二人に、マリアが頭を下げると、王太子ハインがパッと立ち上がった。<br />
<br />
ハイン「久し振りだね、マリア！　そう堅苦しくしなくていいよ。さあ、顔を上げて」<br />
マリア「お、お久し振りです、殿下」<br />
ハイン「本当にね。変わりないようで安心したよ」<br />
マリア「はい、殿下も……」<br />
<br />
ハインにどうしてか、ぎゅっと手を握られて、マリアは少々困惑する。<br />
<br />
マリア「あ、あの……。少し近い、ような……？」<br />
ロベルト「ああ、それなんだがな、マリア――」<br />
ハイン「アシュフォード卿」<br />
<br />
ハイン「それは、僕の口から言わせてください」<br />
マリア「？」<br />
<br />
提案にロベルトが頷くと、ハインはもったいつけるように咳払いをしてから言った。<br />
<br />
ハイン「マリア」<br />
マリア「は、はい」<br />
ハイン「僕と君との婚約が、ついに正式に決まった」<br />
マリア「え……」<br />
ハイン「王妹を母に持つ君とは、血が近すぎるんじゃないか、って周囲に渋られていたんだけどね。やっと説得できたんだ。僕の奥さんは君が良かったから」<br />
マリア「え、えっと……」<br />
<br />
突然の事態におろおろしていると、ハインが苦笑しながら握っていた手を離した。<br />
<br />
ハイン「ごめん、突然だったよね。でも、絶対幸せにする。だから、実際に籍を入れるその日までに、ゆっくり心の準備をしてほしい」<br />
マリア「……はい」<br />
<br />
あまりにことに困惑して、マリアはそう答えるので精一杯だった。 -- Posted by 桜 〔741文字〕 No.100 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?postid=100</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?postid=100</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:03:58 +0900</pubDate>
</item>
<!-- One Entry Data for RSS Feed -->
<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 オープニング3 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> オープニング3</span><br />
<br />
//背景：王宮・廊下・昼<br />
<br />
マリア（随分と久し振りに来た気がするわ……）<br />
<br />
ロベルトの後を追いながら歩くマリアは、視線だけを動かしながら、周囲を見渡す。幼少期は従兄でもある王太子と遊ぶため、頻繁に訪れていたものだが、ここ数年はさっぱりだった。<br />
<br />
ロベルト「おや。ウィルくんじゃないか」<br />
ウィル「これは、ご無沙汰しております。アシュフォード卿。それから、マリア姫も」<br />
マリア「え、えぇ……」<br />
ウィル「本日はどうなさったのですか、卿？」<br />
ロベルト「いや、実は『あの件』が正式に決まったそうでね」<br />
ウィル「！」<br />
<br />
マリア（……『あの件』？）<br />
<br />
ウィル「……そうでしたか。それは、急ぎ参内されるのも納得です。ですが……」<br />
<br />
ウィルがこちらに視線を向ける。<br />
<br />
ウィル「それならば、いきなり姫同席の元にお話しなさるのは、些か急が過ぎるのでは？　見たところ、姫にはまだ何も仰っていないようですし」<br />
ロベルト「う、うむ……。たしかに」<br />
ウィル「ひとまず、卿だけでお話なされては？　頃合いを見て、俺が姫をお連れしますよ」<br />
ロベルト「…………」<br />
<br />
ウィルの提案に、しばし悩む様子を見せたロベルトだったが、次の瞬間には笑顔で顔を上げた。<br />
<br />
ロベルト「そうだな。では、ウィルくんの言う通りにしよう！　君ならば、安心できる」<br />
<br />
ロベルト「ではマリア、ウィルく――、おっと……、王宮に仕える騎士殿をいつまでも「くん」呼びするのは失礼だった。アルジェリス卿と後から来なさい」<br />
マリア「あっ、お父様！？」<br />
<br />
さっさと立ち去っていったロベルトを、マリアは呆然と見送るしかできなかった。<br />
<br />
マリア「…………」<br />
<br />
マリア「……それで、どうして父を遠ざけましたの？」<br />
ウィル「ん？　何のことだ？」<br />
<br />
先程までとは打って変わり、気安い態度になったウィルに、マリアは肩を竦めた。<br />
<br />
マリア「とぼけるなら……、まあいいです」<br />
<br />
マリア「貴方とも随分お久し振りですね、ウィル様」<br />
ウィル「まあ、ガキの頃とは違うからな」<br />
マリア「そうですね」<br />
<br />
ウィルとは、いわゆる「幼馴染」だ。<br />
とはいっても、狭い貴族社会で年回りの近い、家格も近い子供たちが顔見知りなのは、当然と言えば当然だ。結婚を意識するような年回りに近付くごとに交流は薄くなって、こうして顔を合わせたのは何年ぶりだろう。<br />
<br />
マリア「騎士になった、って聞いてましたけど……。こうしてみると、なかなか板についていますね」<br />
ウィル「まぁな。そういうお前も、すっかり『淑女』だな」<br />
<br />
ウィル「馬子にも衣装？」<br />
マリア「……バカにしてます？」<br />
ウィル「ハハ、冗談冗談。あんま怒んなよ。かわいい顔が台無しだぜ？」<br />
<br />
ぽんぽんと頭に乗せられた手に、ますますムッとする。<br />
<br />
マリア「もう、いっつも子ども扱いして……。それより、そろそろ行かなくて良いのですか？　何の話なのかは知りませんが、私にも関係のあるお話なのでしょう？　あまり、お待たせしては――」<br />
ウィル「…………」<br />
マリア「な、なんですか……？」<br />
ウィル「……いや、なんでも。そんな時期か、って思ってさ」<br />
マリア「え？」<br />
ウィル「なんでもねーよ。行こうか、マリアの言う通り、あんまり陛下をお待たせするのもな」<br />
マリア「あっ、ま、待ってください……！」<br />
<br />
マリア（どういう意味……？）<br />
<br />
しかし、ウィルがその疑問に答えてくれることはなく、あっという間に、国王の待つ部屋へと連れていかれたのだった。 -- Posted by 桜 〔1437文字〕 No.99 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:00:32 +0900</pubDate>
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<item>
	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　あの後、ファルと再び込み入った話をする間もないまま、夜が明ける。<br />
　この日も、前日とは別の被験者の元へ行くことになっており、ファルと二人エルジュの後を追って、現場へと向かった。<br />
　昨日はかなり安定している被験者だったが、今日訪ねるのは経過観察に注意を払わねばならない対象だそうだった。<br />
　とはいっても、研究所の所員でもない部外者を連れていけるくらいなので、差し迫った何かは無い――と、聞かされていた。<br />
　しかし。<br />
　被験者宅に辿り着いた時、エルジュがドアベルを押すよりも早く、その扉が内側から開いた。<br />
「――エルジュさん！　丁度良かった、今研究所に連絡しようと……！」<br />
　開け放たれた玄関から現れた男性は、エルジュの姿に余程安堵したのか、涙目になっている。<br />
　そんな男の様子に、表情を引き締めたのはエルジュだ。<br />
「何がありました」<br />
「繭が……、息子の繭が、黒く――！」<br />
　息を飲んだエルジュは、慌てて家の中へと駆けていく。<br />
　レンたちも逡巡したものの、玄関先に突っ立っていても仕方がないと、彼の後を追った。<br />
　廊下を幾度か曲がり、部屋へ入る。<br />
　そこには、立ち竦むエルジュと――繭があった。<br />
　だが、昨日見たものとはまるで違う。<br />
　輝くほど真っ白だった繭とは似ても似つかぬほど、そこにあるのは、ダークグレーに黒ずんでいる。心なしか表面もごわついて見えた。<br />
「こんな、急に……」<br />
　呆然とエルジュが呟く。<br />
「――っ、レン、ファル」<br />
　振り向いたエルジュが、レンたちの名を呼んだ。<br />
「貴方たち、魔法は？」<br />
「つ、使えます」<br />
　レンが答え、ファルも隣で頷いている。<br />
「ならば魔素の操作もできますね。来てください、彼を羽化させます」<br />
「えっ！？」<br />
　思わず声を上げたのはレンだけだったが、ファルも驚愕に目を見開いていた。<br />
「で、でも、外から強制的に羽化させるなんて……」<br />
　繭に近付くエルジュの背に問いかけると、彼は立ち止まって振り返る。そして、シャツのカフスボタンを外し、袖を捲った。<br />
「やらねば、彼がそのまま死ぬだけです」<br />
　それだけ言うと、またレンたちに背を向けて、繭の方へ向かった。<br />
　蛹期の蝶の民は非常に繊細――。それを承知の上で外圧をかけるなど、普通ならあり得ない。<br />
　だがエルジュが言うのだから、このまま放置しても中の人間が死んでしまうだけなのだろう。<br />
　それを分かっていても、足が竦んで動かない。<br />
　その時、隣からぽんと肩に手が乗せられる。<br />
「……ファル」<br />
「やろう。僕たちしかいないんだ」<br />
　そんなことを言うファルの手は、小刻みに震えていた。<br />
　当然だ。彼は助けるため<ruby class="decorationR">で<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">な<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">い<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>繭へ手を加える様を、間近で見ている。<br />
　自分よりも余程、怖いはずだ。<br />
「――そうだな。俺たちがやらなきゃな」<br />
　レンはファルの震える手に、自分のそれを重ねて笑った。<br />
「何をすればいいですか！」<br />
　二人で繭に近付きながら、エルジュに問いかける。<br />
　彼は少しほっとしたように表情を緩めて、繭を指差した。<br />
「まず、揺らさないように手を当てて。それから、魔法を使う時の要領で、中に魔素を流してください」<br />
　頷いて指示に従い、黒ずんだ繭に手を当てる。<br />
　やはり、昨日のものよりごわごわとしていて、生気が薄い気がした。<br />
「――その後はどうすれば？」<br />
　おそるおそる魔素を流しはじめながら問いかける。<br />
「暫くそのままで。これは蛹期の経過を強制的に早める行為です。一定程度魔素を吸収すれば羽化が――、はじまりましたね」<br />
　エルジュが手を離したのに合わせて、レンとファルも繭から手を離す。<br />
　程なくして、パリパリという小さな音と共に、繭にヒビが入る。そして、繭が裂けはじめると同時に、天井に張り付いていた糸が少しずつ剥がれて繭が床にゆっくり着地する。<br />
　そこまで見届けたエルジュは、安堵の息をついてレンたちに手を振った。<br />
「もう大丈夫です。少し離れてあげて」<br />
「は、はい」<br />
　繭の裂け目が大きくなる。<br />
　そして、中からのそりと一人の青年が身体を起こした。<br />
　彼が不思議そうに目を瞬かせると、エルジュがゆっくりと近付いて片膝をついた。<br />
「羽化おめでとう。身体の調子はいかがですか？」<br />
「……えっと」<br />
　ポツポツと青年がエルジュの質問に答えるのを横目に、レンは隣に立つファルの様子を窺った。<br />
「――ファル」<br />
「あ……」<br />
　青白い顔をした彼の手を、暖めるように両手で握りしめる。<br />
「もう終わった。あの子も元気だよ」<br />
「…………うん」<br />
　ファルは力が抜けたように、レンの肩に頭を預けて息をついた。<br />
　そんな彼の頭をよしよしと撫でて、レンもようやく一息ついたのだった。 -- Posted by 桜 〔1951文字〕 No.98 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:53:15 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　研究所に戻ったレンとファルは、他の参加者の戻りを待ちながら、体験入所の日報を纏めていた。<br />
「やばい、紙足りないんだけど」<br />
「ぶふっ……」<br />
　次第に狭くなっていく自由記述欄にレンが呟くと、ファルが吹き出して肩を震わせる。<br />
「わ、笑うなよぉ……」<br />
「いいじゃないか。『以下、別紙』で続き書けば」<br />
　半笑いのままの提案に、「それしかないか」と考えつつ、手元は止まったままのファルの様子を窺う。<br />
「……な、やっぱキツかった？」<br />
　主語のない問いに、ファルがこてと首を傾げた。だが、暫くして何についての問いなのか理解したらしく、一転して呆れ顔を浮かべた。<br />
「そういうんじゃない、って言っただろ」<br />
「でも」<br />
「本当に違うから。ただ――」<br />
　ファルは一度言葉を切ると、周囲を気にするように視線を巡らせて、レン以外誰もいないのを確認すると、声を潜めて続けた。<br />
「『普通の繭』はあんなに綺麗なんだな、っていうのと――。あと、僕は『普通』じゃないからな……。本当に羽化できるのか、って」<br />
「ファル……」<br />
　レンは何と返してよいか分からず、思わず黙ってしまう。<br />
　彼が見てきたのであろう「普通ではない繭」とは、一体どんなものだったのだろうか。そして、それらを間近で見ていざるを得なかった幼少期のファルはどれほど――。<br />
　軽々しく慰めを口にすることもできずにいると、俄に部屋の外が騒がしくなった。<br />
「みんな戻ってきたみたいだな」<br />
「……だな」<br />
　何事もなかったかのように言うファルに、レンはぎこちない笑みを返す。<br />
　これ以上の話をここでするわけにはいかない。<br />
　日報に目を落としたファルに倣うように、レンも手元を見る。<br />
　だが、集中などできるはずもなく、ペンを持つ手は一向に動いてくれなかった。 -- Posted by 桜 〔771文字〕 No.97 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:51:46 +0900</pubDate>
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<item>
	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　被験者宅での実習が終わり、レンたちは研究所への帰途についていた。<br />
　主にはエルジュの作業を見守っていただけではあるが、レンは上機嫌のままるんるんと歩く。<br />
　蛹化した蝶の民は非常に繊細ゆえに、外部から中の状況を知る方法も限られている。<br />
　主には繭の表面を微量に採取して、薬品と反応させることで、羽化までの期間が順調か判別している。<br />
　今回エルジュに見せてもらったものもそれで、繭の破片を入れた蒸留水に、試薬を入れると鮮やかな菫色に変わったのには感動した。<br />
　基本的には蛹期の初期は青、羽化直前には赤へと変わるらしい。<br />
　今回現れた菫色は、この時期としては一般的な色であり、順調に羽化への道のりを辿っているという証だ。<br />
「――けど、ほんと不思議だよなぁ。繭表面から、中の状況が分かるなんて」<br />
　レンはファルと並んで歩きながら、半ば独り言のように呟いた。<br />
　それに反応したのは意外にもエルジュで、半歩前を歩いていた彼は、ちらと振り返って口を開く。<br />
「そうでもないですよ。あの繭自体も、蝶の民が生み出したものですから。繭を含めた全てが、一つの生命と考えることもできます」<br />
「なるほど……。でも繭って、羽化後は肉体に再度取り込まれませんよね？」<br />
　羽化後に不要となるものが「生命の一部」なのか、と疑問を返すと、エルジュは難しい顔をしながらも頷いた。<br />
「もちろん考え方はそれぞれですし、諸説あります。ですが、人体でも同じことは言えますよ」<br />
　彼はレンの頭を指差した。<br />
「例えば髪。生え変わり、抜け落ちた後の人毛を『生命』とは思えずとも、肉体の一部となっている今はどうですか？」<br />
「…………。たしかに！！」<br />
　新たな知見にハッとして声を上げる。エルジュが微笑ましいものを見るような目で、ほんの少しだけ目を細めた。<br />
「ファル、貴方はどうでしたか。口数が少なかったように思いますが」<br />
　問われたファルは、どこかぼんやりとした様子で顔を上げた。その姿に、レンも今更ながら心配になる。<br />
　目の前のことに集中しすぎて、ファルの存在がすっかり意識の外に追いやられていたことを反省しながら、彼の顔を覗き込んだ。<br />
「なんかごめん、俺ばっか楽しんじゃって」<br />
「……いや、そういうんじゃなくて」<br />
　ファルは言葉に迷うように、二度、三度と口を開け閉めしたあと、続きを呟いた。<br />
「僕はまだ……、二十三にもなって蛹になる気配もないから、その……、今日の彼のように…本当になれるのか、と……」<br />
　ファルの言う通り、二十歳を超えていまだに蛹化の兆しがないのは、かなり遅い部類だ。<br />
　だがエルジュは事も無げに肩を竦めた。<br />
「確かに平均よりは遅い、と言わざるを得ませんが。それでも個人差があります。三十代になって羽化した例もありますからね。気にしすぎないことです」<br />
「…………はい」<br />
　ファルは、慰めの言葉に薄く笑みを浮かべた。<br />
　だがそこに、拭いきれない不安を見て、レンは落ち着かない気持ちになっていた。 -- Posted by 桜 〔1264文字〕 No.96 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:50:49 +0900</pubDate>
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<item>
	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「わぁ……」<br />
　レンは目の前の光景に感嘆の声を漏らした。<br />
　そこには、輝くような白い色をした大きな繭がある。<br />
　部屋の一角に、粘性の糸で天井と床が繋がれ、宙に浮くようにそれがあった。<br />
　家族全員、ただの人――蝶の民ではないレンは、繭を見ること自体初めてだ。<br />
「すっげぇ、綺麗……」<br />
　本に載っている写真でしか見たことのなかったそれは、実際に見てみると迫力がまるで違う。<br />
　人一人が入っているのだから当然だが、繭は思っていたよりも大きく、表面には艶めくような輝きがある。<br />
　同級生たちが蛹期に入り、羽化して戻ってくるのを見るたび、その煌めきを纏うような変化に目を奪われたものだ。この繭があの変貌をもたらすのは、どこか納得だった。<br />
　中にいるのは、今年十六になる少年だそうだ。蛹化してから約二ヶ月。肉体は溶けており、再構築がはじまるよりは前の、まさに生まれ変わる途中の時期である。<br />
　つい手を伸ばしたくなって、ハッとして引っ込める。だが我慢できずに、背後で様子を見守る少年の母を見る。<br />
「あ、あの、あの！　さわっちゃ……、だめ、ですよね……？」<br />
　彼女はぱちりと目を瞬かせると、エルジュの方を向いた。<br />
　その視線を受けて、鞄から筆記具を取り出していたエルジュは、はあ、と大きな溜息をついた。<br />
「絶対に、揺らさないなら……問題はないですよ」<br />
　レンは彼の返答にぱあっと顔を輝かせて、もう一度少年の母を見る。<br />
　彼女も苦笑して頷くのを確認すると、ぐっと拳を握った。<br />
「ありがとうございます！！」<br />
　深々と頭を下げたレンは、さっそく――と繭に向き直る。<br />
　そおっと指を近付けて、指先で触れる。<br />
　表面はサラサラとしていて、細い糸が幾重にも重なっているためか、遠目で見るよりもデコボコしている。<br />
　少し緊張が解けて、今度は手の平を当てた。<br />
「…………あったかい……」<br />
　人の体温より少し低いが、同じ場所にずっと手の平を当てていると、じんわりとぬくもりが伝わってくる。<br />
　本当に生きてるんだな、と改めて実感しながらそっと繭を撫でる。<br />
「……ありがとな。元気に出てくるんだぞ」<br />
　今彼が聞こえているのかは分からないが、少年に礼を言うと、レンはそっと手を離して、ゆっくりと数歩後退した。<br />
　ふと視線を感じて顔を上げると、エルジュがこちらを見ている。<br />
「なんですか？」<br />
「……いえ」<br />
　ふるりと首を振った彼は、眼鏡を押し上げて繭に向き直る。<br />
　その口元がうっすらと弧を描いていたが、レンはますます不思議に思って首を傾げるのだった。 -- Posted by 桜 〔1089文字〕 No.95 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:49:51 +0900</pubDate>
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<item>
	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e6%84%9b%e3%81%99%e3%82%8b%e8%b2%b4%e6%96%b9%e3%81%a8%e3%80%8c%e7%95%aa%e3%80%8d%e3%82%92%e8%a7%a3%e6%b6%88%e3%81%99%e3%82%8b%e6%96%b9%e6%b3%95%ef%bc%88%e4%bb%ae%e9%a1%8c%ef%bc%89" class="taglink" title="愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）">#愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）</a><br />
<a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e6%84%9b%e3%81%99%e3%82%8b%e8%b2%b4%e6%96%b9%e3%81%a8%e3%80%8c%e7%95%aa%e3%80%8d%e3%82%92%e8%a7%a3%e6%b6%88%e3%81%99%e3%82%8b%e6%96%b9%e6%b3%95%ef%bc%88%e4%bb%ae%e9%a1%8c%ef%bc%89%5f%e5%ad%97%e3%82%b3%e3%83%b3%e3%83%86" class="taglink" title="愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）_字コンテ">#愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）_字コンテ</a> 22</span><br />
<br />
　半年後。<br />
「っ……」<br />
　ほろりと頬を流れ落ちた涙に、ユリスは目を覚ました。<br />
　発情期用の抑制剤の効果が切れてきたらしい。<br />
　身体の奥がじくじくと熱く、頬をすべっていった涙にも震えてしまう。<br />
（なんか、懐かしい夢を見たな……）<br />
　ユリスは自室のベッドで丸くなって、目を閉じる。<br />
　ルベルトと番になり、彼の元を去って――、二度目の発情期が訪れていた。<br />
　一度目の時は発情期が来たことに、つまり妊娠していないことに落胆して、分かっていたことだろうと自嘲したものだ。そして、ルベルトが追いかけて来てくれるのではないか、そんな想像をして、勝手に裏切られて、一週間余りの時間を泣いて過ごした。<br />
　来るわけがない。<br />
　今ユリスがいるのは、国の辺境にある一地方だ。しかしその場所は父ダリアスによって、徹底的に秘匿されているはずだからだ。<br />
「……大丈夫」<br />
　薄くなってきた項の痕を指で辿り、言い聞かせるように呟く。<br />
　この半年、ユリスも何もしていなかったわけではない。<br />
　現在ユリスは、通いの家庭教師――のようなものをしている。ここの領主夫妻の幼い息子……オメガ子息の話相手だ。<br />
　自分を慕ってくれる年少の男の子の顔が思い浮かぶ。<br />
　王都を離れ一番に驚いたのは、オメガへの偏見が都より遥かに緩かったことだろうか。<br />
　昔はオメガといえば産まれても売り払われることが常だったと聞いていたが、世界はとっくに変わっていたらしいと知った。<br />
　むしろ、アルファの権勢を高めたいが故に、オメガ排斥の思想は都――特に貴族の中の方が強かったのだ。<br />
　ユリスは今ただのユリスとして、一人のオメガとして、ここで暮らしている。<br />
　今もし、王都に戻れたとして、もうユリスをアルファだと思う人間はいないだろう。そう自分でも感じるほど、自分は変わった。<br />
　それが良い変化なのか――、は、まだ分からないけれど。<br />
「んっ……」<br />
　ユリスは熱い息を吐き出して、手を下履きの中に滑り込ませた。<br />
「あ、……っ」<br />
　緩く勃ち上がった前をやわく握る。それだけの刺激で腰が震えて、後ろが濡れた。<br />
「っふ、ん、あぁ……」<br />
　手で陰茎を扱き、身体をくねらせる。<br />
「っ――！！」<br />
　白濁が手の平を汚し、身体が弛緩する。それと同時に、涙も零れた。<br />
（さみしい）<br />
　普段は理性で抑え込めている感情が溢れ出す。<br />
（さみしい、さみしい……、さみしい……っ）<br />
　汚れた手をシーツに擦り付けて拭くと、そのまま後孔に回す。<br />
「っ、あぁん……」<br />
　つぷりと中に指を挿れる。一度達したばかりの敏感な身体は、ぎゅうぎゅうと細いその指を締め付ける。<br />
　でも、こんなのじゃ足りない。<br />
　もっと熱いもので奥まで満たされたかった。<br />
　全身を包まれて、愛しい匂いで胸をいっぱいにしたい。<br />
　ぽろぽろと涙が零れ落ちていくまま、彼の腕に抱かれていた時を思い出しながら、中を抉った。<br />
「ルベルト、さまぁ……っ！」<br />
　今すぐここに現れて、抱きしめて――。<br />
「……ユリス」<br />
　耳に届いた声に、ハッと息を飲む。<br />
　潤んだ目で扉の方を見る。<br />
「――ルベルト、さま……？」<br />
　いや、でも、あり得ない。<br />
　目蓋を閉じて、もう一度開く。<br />
　目元に溜まっていた涙が落ちて、滲んだ視界は晴れたが、彼の姿はまだそこにある。<br />
　でも、信じられない。<br />
（きっと、発情期が見せる幻だ……）<br />
　でも、それならば。それならば、少しくらい我儘を言ってもいいだろうか。<br />
「っ、なんで……。なんで、今更来たんですか……！」<br />
　上体を起こし、俯いたまま叫ぶ。目からはまた涙がぱたぱたと落ちていくのが見えた。<br />
「おれ、ずっとまってたのに……！！」<br />
　口にして気付く。<br />
　そうだ。本当はずっと待っていた。<br />
　お前が大切だと、他の人間と番になる気はないと、そう言った彼が、その言葉を守りに来てくれることを。<br />
　自分から去っておいて虫が良いと、冷静な部分は言うが、それを振り切って求めてほしかった。<br />
（だって、ほんとうは――）<br />
「あなたのそばにいなくちゃ、おれは生きていけない……」<br />
　貴方が近くにいないと、俺は息の仕方も忘れてしまう。<br />
　可愛い弟のような存在に慕われて、毎日が楽しかった。けれど、心にはいつも穴が開いていて、生きている実感が持てないでいた。<br />
　それに気付いたら折れてしまう。<br />
　どこかでそのことを分かっていたから、見ない振りをしていた。<br />
　なのに。<br />
　どうして今更、と怒りが湧く。<br />
　彼を最後に見た日から半年が経って、やっと――、忘れられるかもしれないと、そう思いはじめていたのに。<br />
　本物のルベルトがいるわけではない。<br />
　それでも、怒りが収まらずに顔を上げる。<br />
　だがその激情が言葉になることはなかった。<br />
「――私もだ」<br />
　は、と息が漏れる。<br />
「……ル、ベルト…さま……？」<br />
　ユリスは男の腕の中にいた。<br />
　体温、匂い、感触――、全てが鮮明にルベルトの存在を主張している。<br />
　おそるおそる、彼の腕に触れる。<br />
「ほん、もの……？」<br />
　通り抜けることも、消えてしまうこともなく、ユリスの指先はルベルトに触れていた。<br />
　呆然と呟くとルベルトは苦笑して、ユリスの頬を両手で包む。<br />
「ああ。私はここにいる。……遅くなって悪かった」<br />
「あ……」<br />
　挟まれた頬が、じんわりと熱くなる。彼の熱が移ったのか、自分の頬がただ熱いのか。それは分からないが、彼が確かに目の前にいるのだと、理解するには十分だった。<br />
「なんで……」<br />
　目尻に涙を溜めて問えば、額にキスが降ってくる。<br />
「言っただろ、『私もだ』って。私も……、お前が傍にいなければ、生きていけない。だから、迎えに来たんだ」 -- Posted by 桜 〔2369文字〕 No.94 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:47:24 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e6%84%9b%e3%81%99%e3%82%8b%e8%b2%b4%e6%96%b9%e3%81%a8%e3%80%8c%e7%95%aa%e3%80%8d%e3%82%92%e8%a7%a3%e6%b6%88%e3%81%99%e3%82%8b%e6%96%b9%e6%b3%95%ef%bc%88%e4%bb%ae%e9%a1%8c%ef%bc%89" class="taglink" title="愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）">#愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）</a><br />
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<br />
　城へと戻るルベルトと別れ、ユリスは自宅の門を潜った。<br />
　静かであたたかみのない雰囲気はいつもと変わらないが、何か違和感があった。<br />
　馬車を降り、玄関ホールへ足を踏み入れる。そこに、普段から最低限の接触しかない家令が立っているのを見て、感じた「違和感」が気のせいではなかったのだと悟った。<br />
「旦那様がお待ちです」<br />
「……、わかった」<br />
　返答の声は、自分でも情けないほど震えていた。<br />
　それでも、どうにか自分を叱咤して父が待つという書斎へ足を向ける。<br />
「――失礼いたします」<br />
　部屋の扉を開けると、その先には普段から厳しい顔を更に険しくした、父ダリアスがいた。<br />
「私が何を言いたいか分かるか」<br />
　挨拶もなしに切り込まれた問いに、ユリスは言葉に詰まる。<br />
　何の話かなんて分からない。だが、「良い話」でないことは、彼の顔を見れば明白だ。<br />
（何か、言わなければ――）<br />
　そう思うのに、唇が震えるばかりで喉からは何の音も出てこない。<br />
　立ち竦むユリスに痺れを切らしたのか、ダリアスが苛立たしげに溜息をついて、ピッと指を差してきた。<br />
「後ろを向け。項を見せろ」<br />
「あ……」<br />
　その確信を持った言い方で、既に自分の身に起こったことが知られているのだと悟った。<br />
　恐怖で崩れ落ちそうになる足で、どうにかダリアスに背を向けて、震える指で長い髪を手繰る。<br />
　すると、もう一度溜息が聞こえた。<br />
「もういい、こちらを向け」<br />
「はい……」<br />
「相手は王太子だな」<br />
（そこまで知られてるのか……）<br />
　ユリスはきゅっと唇を噛んで頷く。<br />
　ここで隠し立てした所で意味がないのは分かっていたからだ。ユリスが何を言おうとも、既に確信を持つだけの情報を、この男は手に入れているはずだからだ。<br />
「この事は、既に両陛下の耳にも届いている」<br />
「！」<br />
「……オメガ程ではないにせよ、番を得ればアルファの肉体にも変化はある。息子のそれに気付かぬほど、両陛下は暗愚ではいらっしゃらない」<br />
　では、はじめから隠し通すことなど不可能だったのだ。<br />
「では、ルベルト様からお聞きになったのですね」<br />
「ああ。殿下といえど、陛下からのご命令を受けてまで、口を噤んだままではいられないからな」<br />
　ダリアスの言葉にユリスはハッと顔を上げた。<br />
（それはつまり、陛下からのご下命があるまで、黙っていて下さったということ……？）<br />
　冷静に考えれば、一国の王子が番を得たことを国王とその妃にまで知らせないなどあり得ない。<br />
　これまでは、単純に運良く知られずに済んでいると思い込んでいたが――。<br />
　ルベルトがユリスの意思を尊重しようとしてくれていたのだと知り、ついユリスの涙腺が緩む。<br />
「殿下は、お前を妃にと望んでおられる」<br />
「……はい」<br />
「それが現実的でないことは、理解しているな？」<br />
「………………はい」<br />
　ダリアスの視線は、ユリスの下腹に向けられている。<br />
　子供を孕むのが難しい身体で、後継を必要とするルベルトの妻の座に居座るわけにはいかない。<br />
「殿下はまだ、お前の身体のことをご存知ないために、そのようなことを仰っているが……。事が事が故に、両陛下には、既にお伝えしている」<br />
　ダリアスが一度言葉を切って、指を二本立てた。<br />
「こうなった以上、お前に取れる手は二つだ。一つ、オメガであることを公表し、殿下の望む通り妃になる。ただしこれは、側妃もしくは愛妾を迎えることが前提だ」<br />
「はい」<br />
「もう一つは、王都を去り、二度と殿下には会わないこと」<br />
「――っ！」<br />
「理由は言わずとも分かるな？」<br />
　ユリスはダリアスから視線を逸らして頷いた。<br />
「俺が傍にいる限り、ルベルト様は妃をお選びになろうとしない、から……ですね」<br />
　ダリアスが頷く。<br />
「仮にこのまま発情期を共にせず、番が解消されようとも、殿下はそうなさるだろうと両陛下はお考えだ。お前をアルファだと思っている時から、殿下はお前に執心なさっていたんだ。誰でもそう思う」<br />
「……はい」<br />
　堪えきれなかった涙が、床の上に落ちた。<br />
「――どうする。後はお前の選択次第だ」 -- Posted by 桜 〔1725文字〕 No.93 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:46:00 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
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<br />
「…………、」<br />
　ゆっくりと進む馬車に揺られ、ユリスは外の景色をぼんやりと見ていた。<br />
（ルベルト様、怒ってるだろうな……）<br />
　何も言わずに、彼に背を向け逃げた。王都を出立してまだ半日も経っていないというのに、もう後悔しそうになっている自分に嫌気が差す。<br />
　けれど、この選択は間違ってないはずだ。<br />
　本当はもっと彼の傍にいたかった。<br />
　でも、ルベルトは「王太子殿下」だ。酷く個人的な独占欲だけで縛り付けていい人ではない。<br />
　だから決して、この選択を後悔してはならないのだ。<br />
　ユリスは目を閉じて、微睡みに身を委ねる。<br />
　事は、ルベルトとの「旅行」から戻り、ローエンベルクの邸宅へ辿り着いた時まで遡る――。 -- Posted by 桜 〔356文字〕 No.92 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:44:28 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
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<br />
「宰相！！　どういうつもりだ！」<br />
　突然部屋に押し入ったルベルトに、宰相――ユリスの父ダリアス・ローエンベルクは、露骨に眉をひそめた。<br />
「何事ですか、王太子殿下」<br />
　含みを持たせた問いかけに、「王太子らしからぬ振る舞いだ」という非難を感じる。<br />
　だが今は、それに構っている余裕などない。<br />
「とぼけるな、ユリスのことだ」<br />
　昨日まで普段となんら変わらない様子だった。だが、今朝になってみれば、待てど暮らせどユリスは出仕してこない。<br />
　焦れてたまたま部屋にやってきたアストルを問い詰めれば――<br />
『ユリス様は昨日をもって、ご退職されました。殿下へのご報告は……、訊ねられるまで黙っているように、とのご指示でした』<br />
　と、この通りだ。<br />
　急に何故、と混乱の中調べてみれば、業務上の引き継ぎなどは完璧で、ユリスだけが煙のようにきえてしまったかのような錯覚を覚えた。<br />
　とはいえ、本来なら王太子である自分の許可もなく辞めるなどできるはずもない。<br />
　それを可能にするには――、目の前のこの男の協力なくしてはあり得ない。<br />
　ダリアスは溜息をつくと、人払いをした。<br />
「何か問題がありましたか」<br />
「問題、だと……？」<br />
「ええ、そうです。執務の滞りなどは起きていないはずですが」<br />
「っ――」<br />
　ルベルトは答えに窮した。<br />
　事実、「業務上の」問題はなかったからだ。<br />
「そっ、それでも、ユリスが私に一言もなくいなくなるなど……」<br />
「今の状況は、あれの選択です、殿下。貴方の元にいることを、あれは拒んだ。それだけの話でしょう」<br />
　傍にいることを拒んだ、という言葉がルベルトの肩に重く伸し掛かる。<br />
　何も言えなくなってしまったルベルトを一瞥し、ダリアスはもう話は終わりだというように、仕事に戻りながら言った。<br />
「――貴方はまだ若い。『番』をこの世の全てのように思えてしまっても仕方がない、が……。フェロモンの結び付きに踊らされ、一生を棒に振るのは愚かな行為です。契約も、少し離れていれば消えてしまう程度のものなのですから」<br />
　それだけ言うと、彼は口を閉じ、もうルベルトの方を見ることはなかった。 -- Posted by 桜 〔937文字〕 No.91 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:43:38 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
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<br />
「――それでは、お大事に」<br />
　エルネストの病室に当てた部屋の扉が開き、聞こえたユリスの声にルベルトは顔を上げた。<br />
「ユリス、フィロー殿の様子は……」<br />
「で、殿下……」<br />
　ビクッと身体を震わせて、一瞬怯えたような表情を見せたユリスに、ルベルトは首を傾げる。<br />
「どうしたんだ、ユリス？」<br />
「……いえ、いらっしゃると思わず」<br />
　扉をゆっくりと後ろ手に締めたユリスは、ルベルトの質問を思い出してか、ちらりと背後に視線を投げる。<br />
「少し、情緒不安定のようですが……。突然のことですから仕方ないでしょう。ひとまず、ベータ男性のアストルに任せることにしましたし、我々にこれ以上できることはないかと」<br />
「そうだな……」<br />
　予期せぬ妊娠。その上、番だという元婚約者は牢の中。自分自身は慣れぬ異国の地となれば、平静でいる方が難しいだろう。<br />
「それよりも、この騒動を収める方法を考える方が専決では？」<br />
「たしかになぁ。ジジイ共が、『妊娠中にもかかわらず王太子妃に名乗りをあげるなんて、これだからオメガは』って、騒ぎ出してる」<br />
「本人も自覚がなかったのですし、仕方ないでしょう」<br />
「聞く耳ないよ、あいつらは……」<br />
　ルベルトは、はぁと大きな溜息をついて、ちらりとユリスを見る。<br />
（どうにかユリスを説得して、オメガであることを公表した後、伴侶に選ぶつもりだったんだけどな……）<br />
　仮に説得できたところで、今は時期が悪すぎる。<br />
　だが、なんとしても次の発情期の時期までにはこの問題を片付けたい。<br />
　そう何度も同じ手口でユリスと過ごすことは難しいし――、それこそエルネストのように妊娠している可能性もある。<br />
「――まぁ、なんにせよあれだな。妃選びはまた振り出しだな」<br />
「嬉しそうですね……」<br />
「そりゃそうだよ」<br />
　ルベルトはユリスの耳元に顔を寄せる。<br />
「私の妃に相応しいのは、お前だ」<br />
「っ……」<br />
　ユリスがルベルトから一歩離れる。<br />
「ユリ……」<br />
　その泣きそうな表情を見て、自分が何かとてもまずいことを言ったのを悟る。<br />
　だが、ユリスは何も言わずに顔を背けた。<br />
「……俺は、」<br />
　ユリスはふると首を振って言葉を切ると、スッと表情を引き締めて、ルベルトを見た。<br />
「馬鹿なことを言ってないで行きますよ。やることは山積みなんですから」<br />
「あ、ああ」<br />
　足早に歩きはじめたユリスの後を追う。<br />
<br />
　この時のユリスが何を思っていたのかは分からぬまま――。<br />
　この日から二週間程が経ったある日、ユリスはルベルトの前から姿を消したのだった。 -- Posted by 桜 〔1103文字〕 No.90 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:42:52 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
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<br />
「お加減はいかがですか」<br />
「…………おかげさまで」<br />
　エルネストの元へ見舞いに訪れたユリスは、明らかに消沈した様子の彼に肩を竦めた。<br />
　エルネストは、案の定妊娠していた。<br />
　相手は、言うまでもなく婚約者だったアルファだ。項に噛み跡まであり、そういえば彼はいつも首の詰まった服を着ていたと思い出す。オメガが首元を隠すのはよくあることなので、気にも止めていなかったが。<br />
　ベッドの上に座り黙ったままのエルネストに、ユリスはとりあえず伝えるべき内容を口にする。<br />
「そちらの国の方へ報告は入れています……が、妊娠初期の長距離移動は避けるべきですからね。暫くはこちらに滞在することとなるかと」<br />
　それでいいか、という意味で聞いたのだが、エルネストは自嘲するように嗤った。<br />
「どうだか。この子がもし生まれれば、ややこしいことになる。それならいっそ、と流れることを期待して呼び戻されるかも」<br />
　投げやりな言葉にユリスは思わず眉をひそめた。<br />
「それを許す鬼畜は、この国にはいません」<br />
「……何故？」<br />
「何故、って……」<br />
「僕は他国の人間だ。それも、妊娠している可能性を黙って、この国の王太子に取り入ろうとしたような奴だぞ？　番にさせられて、避妊薬も飲ませてもらえなかった。その結果どうなるかなんて……、あんたなら分かるだろ」<br />
「……そうですね。<ruby class="decorationR">普<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">通<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>なら――」<br />
　普通なら、かなりの高確率で妊娠する。<br />
「無理やり、だったんですか？」<br />
　エルネストはその問いに、虚を突かれたように押し黙った。そして、ぽつぽつと零すように言う。<br />
「……『無理やり』……だったよ。でも…嬉しかった。あんなどうしようもないクズでも、僕は……彼を、愛していたから」<br />
　エルネストは玉を結んだ涙が零れ落ちる前に、それを袖で拭った。<br />
　それを黙って見つめながら、ユリスは自分とどこか似ているな、と思った。<br />
　愛しい人に触れられる喜びは、抗いがたいものだ。頭ではいけないと、駄目だと思っていても、彼が求めてくれるのならと受け入れてしまう。それが発情期なら、なおさらだ。<br />
　だが、同時にどうしようもないほど、羨望を感じる。<br />
「――俺は、貴方が羨ましい」<br />
　思わず気持ちが口から零れ落ちると、エルネストはハッとしたように顔を上げた。<br />
「愛する人の子供を産める、貴方が」<br />
　ユリスがそれを叶えるには、待たなければならない奇跡があまりにも多すぎるから。 -- Posted by 桜 〔1054文字〕 No.89 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:41:57 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/tegalog.cgi?tag=%e6%84%9b%e3%81%99%e3%82%8b%e8%b2%b4%e6%96%b9%e3%81%a8%e3%80%8c%e7%95%aa%e3%80%8d%e3%82%92%e8%a7%a3%e6%b6%88%e3%81%99%e3%82%8b%e6%96%b9%e6%b3%95%ef%bc%88%e4%bb%ae%e9%a1%8c%ef%bc%89" class="taglink" title="愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）">#愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題）</a><br />
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<br />
　予期せぬ来訪者はあったものの、ユリスがすべきことは変わらない。<br />
　と、思っていた。<br />
「はじめまして、ユリス・ローエンベルク殿、ですよね？」<br />
「え、と……」<br />
　ユリスは件の子息エルネストに、待ち伏せされて捕まってしまったのだった。<br />
<br />
　場所を移し、ルベルトに許可をもらったユリスは、落ち着いた態度で茶を飲むエルネストの対面に座っていた。<br />
「それで、人払いしてまで私にお話とは？」<br />
「分かっておられるのでは？」<br />
　にっこりと微笑まれるが、ユリスには皆目見当がつかない。<br />
　なにせ、ユリスとエルネストは今日が初対面だ。もちろん、ルベルトの最側近であるユリスの存在自体は、彼が知っていても不思議はないが――。<br />
「何を仰ってるのか」<br />
　ユリスの返答に肩を竦めたエルネストは、カップを置いて目を眇めた。<br />
「この国で王太子の補佐官というのは、愛人を兼任するものなのでしょうか？」<br />
「は？」<br />
「隠さなくても結構ですよ。以前、執務室で口付けをなさってましたよね。窓から見えました」<br />
「なっ……」<br />
　この前のキスが見られていたのか、と動揺しそうになるが、どうにか気持ちを落ち着けると、努めて冷静に返した。<br />
「それは殿下への侮辱と受け取っても？　あの方が愛人を補佐官に任命するような、公私も分けられぬ下劣な人間だと」<br />
「まさか！　そのような意図はありませんよ。ただ、不思議だなと思いまして」<br />
「……不思議？」<br />
「ええ。だってそうでしょう。貴方なら、なれるでしょう？　愛人ではなく、『妃』に」<br />
　今度こそ、ユリスは固まってしまった。エルネストの発言は、確信を持っているような口振りだった。<br />
　いや、でもまだ、何を言われたわけでもない。<br />
　ユリスはふぅ、とこれみよがしに溜息をついた。<br />
「王太子殿下が妃にお選びになるのは『異性」です。お世継ぎをお産みになれることが最低条件なのは、貴方もご存知でしょう」<br />
「ええ、もちろん。だから言ったではないですか。『不思議だ』と。貴方はその『異性』に当てはまっているのに」<br />
「……私が女に見えますか？」<br />
　もう、エルネストが何を言いたいのかは分かっていたが、苦し紛れに問い返す。案の定、彼はぷはっと吹き出した。<br />
「まさか。でも、分かりますよ。むしろ、周囲が何故気付かないのかのほうが疑問です」<br />
　それは、ユリスがルベルトと番になった後に会ったからかもしれない、とは思った。<br />
　だが今はそんなことを言っている場合ではない。もう言い逃れが出来そうもない以上、どう口止めをするかだ。<br />
「……フィロー殿の考えていらっしゃる通りだとして。とれをどうするおつもりで？」<br />
「別にどうも。ただ私が知りたいのは、貴方が敵になるのか否か、だけです。貴方が王太子妃候補に名乗りを上げた場合、一番強力なライバルになりそうですし」<br />
　ユリスはエルネストをじっと観察して思う。<br />
（……私が既に殿下の番であることは気付いていないのか？）<br />
　なら、やりようはあるとユリスは嘆息した。<br />
「そういうことでしたら、ご心配には及ばないかと。私は『アルファの男』です。これまでも、これからも」<br />
「…………そうですか」<br />
　オメガであることを公表する気はない。つまり、ルベルトの妻になることを望むこともない。<br />
　そういう意図を含ませた言葉を、エルネストは正確に読み取ってくれたらしい。<br />
　彼はにっこり笑って、ティーカップを摘んだ。<br />
「どうやら、私の<ruby class="decorationR">勘<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">違<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">い<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>だったようで。安心しました」<br />
　彼も多少は緊張していたのだろうか。肩の力が抜けたように思える。<br />
　だが、カップを口元まで持っていった時、異変が起こった。<br />
「っ、う゛……」<br />
　エルネストの手からカップが滑り落ち、大きな音を立てて割れる。<br />
「フィロー殿！？」<br />
　彼は口元を抑え、青い顔をしていた。<br />
「一体、どう――」<br />
　立ち上がったユリスはエルネストの傍まで回り込んで、はっと息を飲んだ。<br />
　単なる勘、としか言いようがない。<br />
　ユリスは周囲を見渡して、自身の副官の名を呼んだ。<br />
「アストル！」<br />
　慌ててこちらへ駆け寄ってくる彼に、小声で指示をする。<br />
「医者の手配……は、私がするから、彼をなるべく揺らさないように運んでやってくれ」<br />
「は、はい。しかし……」<br />
　華奢なオメガとはいえ、エルネストは成人した男だ。運ぶだけなら衛兵など他に適任がいるだろう、という顔だ。<br />
　だが、ユリスは首を横に振った。<br />
　そして、一層蒼白な顔になっているエルネストを一瞥して、彼自身も同じ結論に至ったことを悟った。<br />
「今は騒ぎにしたくないんだ。彼は、…………妊娠しているかもしれない」 -- Posted by 桜 〔1947文字〕 No.88 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:40:15 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #愛する貴方と「番」を解消する方法（仮題） ]]></title>
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<br />
　ルベルトと共に都へ戻った翌々日。<br />
　ユリスは久し振りの出仕に少々緊張しながら、城内を歩いていた。<br />
　ちなみに昨日はルベルトから、休むよう厳命されていたため一日家にいた。発情期も明けて、身体の熱も引いており、時折己の痴態を思い出しては頭を抱えていたが、今日からは仕事で気も紛れることだろう。<br />
「あ。アストル、ちょうど良かった」<br />
　前方に自身の副官の姿を発見して、片手を上げる。<br />
　ルベルトの番となってしまって以降、どうしてもアルファやオメガとの接触には神経質になっているユリスだが、彼はベータということもあり、あの事件以降も気軽に声をかけられる相手だった。<br />
「ユリス様、おはようございます。……ああ、いえ。おかえりなさいませ、の方が適切でしたか？」<br />
　ユリスはくすと笑って、少し肩の力が抜けるのを感じた。<br />
「ああ。私がいない間、ありがとう。変わったことはなかったか？」<br />
　不在にしていた一週間ばかりの期間にあったことを聞いていく。<br />
　予想通り、普段の業務上での問題はなかったようだが、話題は件のオメガ子息の話へと移る。<br />
「それで、殿下のご様子は？」<br />
「さあ……。私の目からは、特に変わったご様子はありませんでしたが……。ユリス様にお会いになりたいようでしたよ」<br />
「一昨日まで毎日顔を合わせていたのに……？」<br />
「それほど、ご信頼なさっているのでしょう」<br />
　ユリスはアストルの言葉に曖昧に微笑んだ。<br />
　その後、いくつか引き継ぎの話をしてから、ユリスはルベルトの執務室へと向かう。<br />
「おはようございます、殿下……」<br />
　そろっと扉を開けると、ルベルトは椅子を蹴倒して立ち上がった。<br />
「ユリス！　ああ、よかった、会いたかった」<br />
「！？　ちょ、でん……」<br />
　つかつかと歩み寄ってきたルベルトに、ぎゅうっときつく抱き締められる。<br />
　愛しいアルファの匂いに満たされて、とろんと目を閉じそうになって、ハッとする。<br />
「っ、ばか！　殿下！！　仕事！」<br />
「んん……もう少し……」<br />
「もう少し、じゃないっ……！」<br />
　項を指で擽られ、膝が崩折れそうになる。散々交わって馴染んだ肌がもっとと求めるが、どうにか意志の力を総動員して、ルベルトの胸を押し返した。<br />
「も、もうこんな所で抱かれる気は無いですからね！？」<br />
　そう言うと、さすがのルベルトも手を離す。<br />
「それは、私も無い……。これでも反省してるだ」<br />
　しょぼんと肩を落とすルベルトに、うっかり絆されそうになるが、ユリスはぶんぶんと首を振って気持ちを切り替えた。<br />
「それより！　結局どうだったんですか。会ったんでしょう？」<br />
「ん？　ああ、フィロー子息のこと？　まあ、挨拶しただけだしなぁ……」<br />
　手を引かれてルベルトの机の方まで連れて行かれると、調査資料らしき紙束を渡された。<br />
「さすが、元王太子の婚約者というかな。身分、経歴、共に問題なし。頭脳明晰、品行方正。非の打ち所のないご子息みたいだな」<br />
「まぁ、王族に入られる予定だったのですし、その辺りは当然ですね……」<br />
「だな。むしろ、婚約者として不出来な王子の補佐もしていた、っていう経歴がある分、今いる候補たちより一歩抜きん出てるくらいかも」<br />
「……随分、褒めるんですね」<br />
　さすがに面白くなくて、ついぼそりと文句を言うと、ルベルトはきょとんと目を瞬かせた。<br />
　それから、ぶはっと吹き出した。<br />
「嫉妬してくれてる？」<br />
「な、あ……、違います！」<br />
「娶る気がないからこそ、気楽に評価もできるんだよ」<br />
「そ…れは……、わかってます…………」<br />
　ルベルトはユリスの手を取って、そこにキスをする。<br />
「私の一番はお前だよ。ほら、おいで」<br />
「っ……」<br />
　手を広げて待ち構えられると、拒否することなどできない。<br />
　おずおずと近付くと、ぐいっと引っ張られて膝の上に乗せられてしまった。<br />
「で、殿下……！ 　こんなところ、見られたら……」<br />
「大丈夫、誰も来ないよ」<br />
「あっ……」<br />
　後頭部を掴まれて引き寄せられる。<br />
　そして、軽く触れるだけのキスをした。<br />
　それ以上触れてこようとしないのに気付いて、閉じていた目を開けると、目尻にも口付けられる。<br />
「まぁ……、さすがにこれ以上はな。途中で止められる自信がない」<br />
「っ～～」<br />
　じゃあ、最初からしないでください！　とは、どうしても言えないユリスだった。 -- Posted by 桜 〔1833文字〕 No.87 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:38:14 +0900</pubDate>
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<br />
　程なくして、ルベルトは症状の落ち着いたユリスと共に、離宮を後にした。<br />
　その後、一旦ユリスとは別れ、彼は自宅へ、自分はそのまま城へと戻ることとなった。<br />
　帰還の挨拶もそこそこに、軽く身支度を整えた後は、すぐに件のオメガ子息との面会をすることとなる。<br />
　その青年が待っているという部屋まで辿り着き、部屋の中へと入る。<br />
　そこで立ち上がった彼は、オメガらしい線の細さが目を引く美青年だった。<br />
「お会いできまして光栄に存じます、殿下。私はエルンスト・フィローと申します。どうぞ、エルンストとお呼びください」<br />
「はじめまして、フィロー殿。遠路からよく起こしくださいました」<br />
　ルベルトがさらりと躱して微笑むと、エルンストも笑みを返した。<br />
　腹の読めない男。それがエルンストの第一印象だった。 -- Posted by 桜 〔397文字〕 No.86 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:37:14 +0900</pubDate>
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