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	<title><![CDATA[  初稿置き場  ]]></title>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　明るく活発で人好きのする青年――。<br />
　エルジュだけではなく、レンと出会った多くの者は、彼をそう称するだろうと思う。<br />
　悪い人物ではないのだろう。それくらいはエルジュにも分かる。<br />
　だが、それでもエルジュは彼が少し「苦手」だと感じていた。<br />
　人との距離を詰めるのが上手く、ああいった性格ならばきっとどこへ行っても上手く溶け込めるのだろうと思う。そしてそれは、エルジュには無い特性であり、気後れするというのは大きい。<br />
　だがそれ以上に、彼を見ていると――思い出してしまうのだ。自身が過去に失った、親友のことを。<br />
　顔形は似ても似つかないのに、どこか重なって見える。それがほんの少し寂しくて、何故か苛立ちを覚えるのだ。レンにとっては、見当違いで理不尽もいいところだというのは理解しているが、その感情が消えるわけではない。<br />
<br />
　そんなやるせのない感情を抱えたまま数日が経ち、座学の日程が終了した。<br />
　講義に関しては正直なところ――、学生にとって面白さを感じるようなものに出来たとは言い難かった。<br />
　そんな中でもレンだけは毎日、目をキラキラさせて一心に聞いてくれるのだ。<br />
　彼に対して好意的に思う気持ちと、一層苛立たしい気持ちとが、エルジュの中でますます膨れ上がっている。<br />
　体験入所の四日目になり、蛹期の被験者宅へ学生たちを連れて行くという段になっても――、苛立ちの原因はいまだ掴めぬままだった。<br />
「……レン、貴方はくれぐれも出先で、はしゃがないように」<br />
　研究所の門前で、エルジュは――自分でもどうかと思うくらい――つっけんどんに、レンへ注意をしてから出発した。<br />
　目的地までの道すがら、エルジュはこれからの流れを反芻しつつも、その傍らではレンと、彼に感じる苛立ちとについて思考を巡らせていた。<br />
　だがやはり答えは出ないまま、現地へと到着してしまい、エルジュはレンともう一人の体験入所者であるファルとを伴って、家の中へと入った。<br />
　そこはもう何度か訪ねている場所であるため、迷いなく廊下を進むと繭のある部屋まで辿り着いた。<br />
　見た目に変化が無いことを確認しながら、その繭の傍に持参した鞄を広げる。中には試薬や試験管など、簡単な検査キットが収められている。危険度の高い繭であれば、それ以外にも羽化に必要な魔素の循環を促す薬品やなど、諸々の処置を施す道具も持ってくることもある。だが今回の繭は現状、経過観察のみであるため、基本的なものだけ用意していた。<br />
　エルジュが繭の採取をするための準備をしている後ろで、レンは興奮を隠しきれない顔で、繭を見つめている。<br />
　そろりと近寄って、手を伸ばしかけたようだが、ハッとしてそれを引っ込めるのを横目で確認して、止めようと声を上げかけた口を閉じた。<br />
「あ、あの、あの！　さわっちゃ……、だめ、ですよね……？」<br />
　レンに問いかけられた被験者の母親から確認の視線を感じて、エルジュは溜息をつく。<br />
「絶対に、揺らさないなら……問題はないですよ」<br />
「ありがとうございます！！」<br />
　体験入所の管理者としては、被験者に害さえ及ばないのであれば、学生の意欲的な行動は歓迎すべきなのだ。<br />
　だからこそ、念入りに釘を刺して許可したエルジュだが、心の中ではもやもやしたものが燻っているのも感じていた。<br />
　鞄から筆記具を出そうとしていた手を止めて、レンの動作を注視する。<br />
　彼はゆっくり繭へと近付くと、まるで――触れれば消えてしまうとでも思っているかのように、慎重な動きでその表面に指先で触れた。それによって少しは安心したのか、今度は手の平を這わせる。<br />
　だが、そのどちらもがとても優しい手付きで、その表情も緊張を滲ませつつではあったが、やわらかなものだった。<br />
　それを見て、エルジュは小さく息をついた。<br />
　この青年は――、本当に蝶の民を愛しているのだ、と。<br />
　エルジュは暫し瞑目する。そして次に目を開けた時、レンの姿はこれまでのように親友と重なって見えることはなくなっていた。<br />
　それに気付いて、そうか――と思った。<br />
　自分はずっと、親友の死を受け入れられていなかったのだ。蛹となりそのまま姿を消してしまった彼が、本当はまだ羽化していないだけで、いつか……いつか戻ってくるのではないか、と。<br />
　葬儀にも出席した。繭から取り出された、眠るような穏やかな顔を見た。墓にだって時折訪れる。なのに、いつか――と。<br />
　レンを見て苛立ったのは、似ていないくせに、どこか思い出させるそんな振る舞いが、「もう彼はいないのだ」と訴えかけるように感じたからだろう。<br />
　君は、もう戻ってこないんだな――。<br />
　それを心の底から理解する。<br />
　だが、どこか晴れやかな気分だった。<br />
「――なんですか？」<br />
　繭から一歩後退したレンが、エルジュの視線に気付いてか首を傾げる。<br />
「……いえ」<br />
　なんでもないと首を振り、だがそのままレンを見ているのも気恥ずかしくて繭の方を向いた。<br />
　エルジュは心の中で、亡き親友の名前を呼ぶ。<br />
　それから、彼が示してくれたこの研究者という道を、これからも精一杯歩んでいくと、再度心に誓った。<br />
　そしてきっと――その道を歩む仲間の一人に、レンも加わるのだろう。<br />
　そんな確かな予感を感じていた。 -- Posted by 桜 〔2185文字〕 No.122 ]]></description>
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	<pubDate>Fri, 23 Oct 2026 11:40:27 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　日々はあっという間に過ぎ、体験入所がはじまった。<br />
「――今年の子たちはどういう様子だったかな？」<br />
　その初日から一日明け、朝礼が行われる最中、蝶の民研究所の長ライシオンが話の流れで、そう問いかけてきた。どう、と言われても――と思いつつ、エルジュは言葉に迷いながら返答する。<br />
「まだ初日を終えたばかりですので、なんとも……。ああ、でも」<br />
　昨日会ったばかりの五人の顔を思い浮かべ、その内の一人だけ印象に残っているのを思い出す。<br />
「レンという学生ですが、彼は他四名に比べても、かなり意欲的なようでした」<br />
　エルジュがそう言うと、斜め前に座っていた女性職員が手を上げる。<br />
「わたし覚えてますよ、その子。エルジュくん、質問攻めにされてたでしょ？　困ってておもしろ――大変そうだな、って」<br />
　初日の自己紹介の後、エルジュが先導して行われた研究所内の案内でのことだ。半笑いで「面白い」と言いかけた彼女をむっと睨むエルジュだが、あの場に居合わせたのは彼女だけではない。何人か同じように笑いを堪えている姿があった。<br />
「そうか。意欲的なのは結構なことだね」<br />
　雰囲気につられるようにライシオンも、くすりと笑っている。だが、年嵩の研究員が真面目な口調で言葉を挟んだ。<br />
「しかし……。そういうことならば、少し注意して見守った方が良いかもしれませんね」<br />
　少々警戒するような声音に、ライシオンも笑みを引っ込めて頷いた。<br />
「そうだね。そういうタイプは大方が二種類に分けられる。『我々と志を同じくできる者』か、『興味本位で現場を引っかきまわす者』か……」<br />
　神妙に呟いたライシオンは、エルジュに視線を向けた。<br />
「エルジュ、君はどう思う？」<br />
　静かな彼の眼差しに、エルジュは小さく首を横に振った。<br />
「後者でなければいいと思いますが……、判断はまだ出来かねます」<br />
　それから胸の内で、エルジュはこう付け足した。<br />
　ただ、私は彼が少し――苦手だ。 -- Posted by 桜 〔843文字〕 No.121 ]]></description>
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	<pubDate>Mon, 19 Oct 2026 22:20:57 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　私が蝶の民の研究者を目指したのは、そう変わった経緯があったわけではない。<br />
　親友――、そう呼んで差し支えないほど仲の良かった友人が、羽化できずに帰ってこなかった。それだけの話だ。<br />
　蝶の民としてこの国に生まれた者ならば、そう頻繁にではないにせよ、そんな過去を持つ者もいないではない。私も、そんな「悲劇」を持つうちの一人というだけ。<br />
　幸いにして研究職に適性もあり、難なく王都の研究機関に就職を決め――、気付けば二年の月日が経っていた。<br />
<br />
　今年も夏が来て、<ruby class="decorationR">あ<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">の<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>時期になった。<br />
　アカデミー上級課程卒業年次生向けの、職業体験の季節だ。<br />
「エルジュ、今年は君が担当だ」<br />
　そう研究所長から告げられたのは、春の終わりだったか。<br />
　昨年は入所したばかりだったため、先輩たちが準備して回る様を横目で見ているだけだったが、毎年「体験入所」は新人が担当するのだそうだ。<br />
　今年入った新人はいない。エルジュが現状この蝶の民研究所の一番若手である。<br />
　断れるはずもないのだが、そう口が達者な方ではないことを自覚しているエルジュは、思わず顔をしかめてしまう。不満がもろに出ていたからか、所長には「補佐はつけてやるから」と笑われたのだった。<br />
　とはいえ、準備自体は前年までの資料があるため、細かい修正をする程度だ。体験入所の手続きに関しても、基本的にはアカデミー側が管理しているため、受付締切後に出席者のリストを受け取るだけだった。<br />
「今年は五人か～、意外と多いな」<br />
「そうなんですか？」<br />
　先輩の一人が名簿を見て感嘆の声を漏らすのに、エルジュは首を傾げた。<br />
「ああ。毎年多くて三人……、下手すりゃゼロの年もあるぞ」<br />
「へぇ……」<br />
　言われてみれば、自身がこのプログラムを受けた時も出席者は三人だった。まさかあれで多い方とは。<br />
「まあ、若いもんにとっちゃあ、『蝶の民だけ』を研究するここは、地味でつまらんのだろうよ」<br />
　彼はわははと快活に笑う。<br />
「派手さも無ければ、結果もすぐに出るとは言い難い。同じ研究者でも、魔法や魔道具の方がそりゃ人気だろう。だからこそ、見込みのある奴しか取らないんだがな」<br />
　先輩の男はエルジュの肩をバシバシと叩いた。<br />
「今年は面白いのがいるといいなぁ！」<br />
　そう言いながら去っていく背中に、エルジュは肩を竦める。<br />
「面白いの、ねぇ……」<br />
　エルジュも入ってから知ったが、ここの入所条件はある意味とてもとても高い。<br />
　勉強だけできても駄目。人柄だけでも駄目。振る舞いや経歴がどれほど華やかで素晴らしくとも、落ちる者は落ちるのだ。<br />
　この研究所に入るために必要なのはただ一つ。<br />
　――蝶の民を心から愛していること。<br />
　もっと言うなれば、蝶の民を愛し、守りたいと心の底から願えていること。そのために、身命を賭せる覚悟のあること。<br />
　簡単なようで、とても難しい条件だ。<br />
　逆に言えば、それさえクリア出来るのならは、その他の瑕疵は少々ならば目を瞑ってもらえる。<br />
　そのくらい、この国において「蝶の民研究」というものは、様々な思いが巡るものなのだと言えた。<br />
「――さて。授業の内容をチェックしてもらいに行くか」<br />
　エルジュは座学に使う書類を纏めたファイルを持って立ち上がる。<br />
　体験入所の開始まで、後一ヶ月を切っていた。 -- Posted by 桜 〔1395文字〕 No.120 ]]></description>
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	<category>c0010</category>
	<pubDate>Mon, 19 Oct 2026 14:39:53 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「こうしてると、昔を思い出すよな――」<br />
　レンの口にした何気ない一言で、二人はアカデミー近くの丘まで来ていた。<br />
　通常課程の一年目、春の成果発表会の後、二人で訪れたあの場所だ。<br />
　あの日と違い、今日は何でもない平日であるため、目の前にはただ暗い校舎が見えるばかりだ。<br />
　グラスと酒瓶だけ持ったレンたちは、あの日と同じ場所に腰を下ろして、広がる闇夜を見つめた。<br />
　何も見えはしない。だが、きっとどちらもあの日の光景が目蓋の裏には浮かんでいる。<br />
「あれから七年も経ったとか、信じらんないな」<br />
　レンはグラスの酒をちびりと啜って、ひとり言のように呟く。<br />
　あの時はファルとこうして二人でいるなんて、こんなにも長い付き合いになるなんて、想像もしていなかった。<br />
　だが、いつの間にか彼が傍にいることが当たり前になって――、来年からは否応なく距離が離れてしまうことが信じられない。<br />
　同じ王都にいる。会うことは十分可能だ。けれど、今ほどの距離ではいられないだろう。<br />
　それが無性に寂しい。<br />
　お互い希望する進路を掴めたのだから、喜ばしいことなのに。<br />
「なあ、ファル……、ファル？」<br />
　反応が無いことを訝しんで、レンは傍らに視線を向けた。<br />
　その時、ファルの手からグラスが滑り落ちて、中の液体を撒き散らしながら草の上を転がっていく。<br />
「あ……」<br />
　ファルの口から吐息のような声が漏れた。<br />
　レンも顔を上げ――、息を飲む。<br />
「ファル、お前……」<br />
　彼の髪から綺麗に色が抜けて、夜の闇に浮かんで見えた。いや、髪だけではない。目も、肌からも色が抜けていっている。<br />
　知識としては知っていた。だが――、目の前で実際に見るのは衝撃が違う。<br />
「レン……、僕は」<br />
「――大丈夫だ。行こう」<br />
　レンはファルの手を引いて、アカデミーの<ruby class="decorationR">そ<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">れ<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>専用の区画に向かった。<br />
　レンは彼の手を強く握りそうになって、慌てて力を抜く。今の状態の肉体が、どの程度の強度を持っているのか、レンには分からなかったからだ。<br />
　――ああ、こんなに早く別れが来るなんて。<br />
　卒業までもう幾ばくもない。ファルはおそらく、卒業式への出席は出来ないだろう。<br />
　レンは自身の身勝手な寂しさから湧く気持ちを振り払うように首を振って、ファルの方へ振り返った。<br />
　彼のことを思えば、「今」なのは良いことなのだ。アカデミーというサポート体制が整った場所にいる間であったことは、幸運でしかない。<br />
　だから、レンは笑った。<br />
「良かったな、ファル」<br />
　色の抜ける髪は、蛹化がはじまった証。<br />
　彼は蛹になって生まれ変わる。<br />
　ようやく待ち望んでいた羽化が、その身に起こるのだ。<br />
「…………ありがとう、レン」<br />
　ファルが再び目を覚ます頃、レンはもうアカデミーにはいない。<br />
　次に会えるのは一体いつになるのか――。<br />
　レンは胸に湧く不安を押し込めて、ただ笑ってファルの手を引いた。 -- Posted by 桜 〔1232文字〕 No.119 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Wed, 14 Oct 2026 01:42:27 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「――では、お互いの就職決定を祝してー」<br />
「「かんぱい！」」<br />
　レンはファルとグラスを上げて、酒を呷った。<br />
　アカデミー卒業が間近となった日の夜。ファルの進路がようやく決まり、先んじて研究所からの正式な内定通知を貰っていたレンは、二人でお祝いをしようと飲みに誘ったのだ。<br />
　とはいえ、場所は寮の食堂。外で買ってきた酒とつまみを持ち込んだだけの、夕食の延長のようなそれだ。<br />
「けど、まさかファルが官僚になるなんてなぁ……」<br />
　レンがしみじみ呟くと、ファルは肩を竦めた。<br />
「夏季休暇からの急な方向転換だっただろ？　出願とか諸々、間に合うかすら分かんなかったんだよ」<br />
「ああ。一般応募だったら、かなり厳しかったんだっけ」<br />
「そのあたりは、アカデミー様々だな……」<br />
　官僚――つまり、王宮勤めの文官職なのだが、登用には各種の試験がある。学力試験やら小論文の提出やら面接やら……。レンは聞くだけでも「うへぇ」となってしまうが、ファルはそれらの殆どをしっかり突破して、その座を勝ち取ったのだ。<br />
　殆ど、というのは、アカデミーの上級課程在籍者の場合は、そこまでの成績に応じていくつかの試験を免除されるためだ。<br />
　もっとも、ファルの場合はその辺りの免除がなくとも、実力で突破しそうではあったのだが、問題は出願期限だった。アカデミー経由の出願の場合は、そういった免除制度があるため、比較的遅い時期まで受け付けている。十代後半に蛹期を迎える蝶の民への配慮、という理由もあるのだろうが、アカデミーの上級課程を卒業する成績優秀者を少しでも多く取り込みたいというのが本音だろう。<br />
　今回のファルは、それに救われた形だ。<br />
　ちなみにレンはというと、夏季休暇のあの日に研究所を訪れたところ、そのまま内定となった。正式な通知が届けられたのはもう少し後のことだったが、現在は週に一度ほど事前研修という形で顔を出している。<br />
　面接練習やらでへろへろになっていたファルに、散々ずるいと文句を言われたが、恵まれているのは本当のことなので、甘んじて受け入れたものだ。<br />
「けど、ほんと……。やっと肩の力が抜けた……。通知書の封筒開ける時、心臓破裂するかと」<br />
「えー？　『結構いい感じだった』、とか言ってたじゃん。なのに？」<br />
「そりゃあ感触は良かったけどな……。結果来るまで安心なんかできないだろ」<br />
「まあ、たしかに」<br />
　上級課程に上がる際の試験を思い出して、レンも肩を竦めた。難易度はあれと比べ物にならないが、「おそらく大丈夫」と思っていても不安なものは不安だ。<br />
「なんにせよ、受かったんだしさ。今日は飲め飲め」<br />
　ファルのグラスに酒を注ぎ足してやりながら、お疲れと肩を叩く。<br />
「そうする。お互いこれからが大変なんだし、今日くらいはな」<br />
「ほんと、それな……」<br />
　研究所の方から出されている課題を思い出し、少し遠い目になる。楽しい――のは楽しいのだが、頭に詰めなければならない知識の量があまりに膨大で、気が遠くなるのだ。<br />
　ファルは無言でレンの肩を叩き返すと、労いの意味を込めてか、もう一度グラスを合わせたのだった。 -- Posted by 桜 〔1321文字〕 No.118 ]]></description>
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	<pubDate>Wed, 14 Oct 2026 01:04:54 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
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<br />
　王都まで戻ってきたファルたちは、馬車から降りて固まった身体を伸ばす。<br />
　ひとまずアカデミーまで戻るのかと思っていたところ、唐突にレンがこんなことを言った。<br />
「俺、早速研究所に行ってみようかと思うんだけど、ファルはどうする？」<br />
「え、今から？」<br />
「善は急げって言うだろ？」<br />
　事前の連絡無しに行っていいものなのか？　と内心首を捻りつつも、まあレンだからなぁと納得してしまい、ファルは頷いた。<br />
「分かった。じゃあ僕は先にアカデミーに戻る。就職課に聞きたいこともあるし」<br />
「ん？　就職課？　……もしかして、卒業後どうするか決まったのか？」<br />
　研究所の方へ歩き出そうとしていたレンが、驚いてこちらを振り返る。<br />
　そう。決まったのだ。だがファルは、ニヤリと笑ってさっさと歩き出した。<br />
「確定したら教えてやるよ」<br />
「あ、ちょっ……、ズルいぞ！　気になるだろ！」<br />
　後で教えろよー！　と遠くに聞こえる声に、振り返らないまま手を振った。<br />
　格好をつけてはみたものの、実のところ今からその「希望」を叶えられるのかが分からなかった、というのが大きい。<br />
　だがきっと大丈夫だろうと何の根拠もなく思う。<br />
　そんなファルが選んだ進路は――。 -- Posted by 桜 〔543文字〕 No.117 ]]></description>
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	<pubDate>Tue, 13 Oct 2026 19:19:56 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「俺、研究者になるよ」<br />
　レンの宣言を聞いて、ファルがどれほど安堵し、そして嬉しかったか。<br />
　目の前の親友はきっと知らないだろう。<br />
　自身の過去を吐露したことが影響しているのかもしれないという罪悪感だけではない。<br />
　ファルは、レンに彼のかねてからの夢を叶えてほしかった。<br />
　初めて会った時には酷く反発したものだが、あれだって――今思えば「憧れ」の裏返しだったのではないかと思う。<br />
　レンはいつも真っ直ぐだった。<br />
　真っ直ぐすぎて、眩しくて……、思わず目を背けてしまいそうになるほど。<br />
　彼のそういうところを、ファルは尊敬し――愛している。<br />
　苦しいほどの光は、いつしかファルにとって、無くてはならないものになっていたのだ。<br />
「……父さん、母さん」<br />
　その光に導かれるように、ファルは頭を上げて両親の顔を見た。<br />
「僕も、ずっと聞きたかったことがある。どうして……二人は人間を恨んだり、憎んだりせずにいられたんだ？」<br />
　ファルはレンと出会うまで、両親以外に心を開ける相手はいなかった。周囲は敵ばかりだと思っていた。自分たちの受けた苦しみに無理解な同級生たちが嫌いだった。蚊帳の外から憐れんでみせるだけの大人が腹立たしかった。<br />
　そんな、ファルから見れば苛立ちを覚えるだけの相手にも、両親は優しかった。いつも笑顏で、愚痴や不満など聞いたこともない。それは、研究所にいる時も――だ。<br />
「――恨んで、憎んだわ。たくさん」<br />
　静かに答えたのは母ラァナだった。父オーランも、同意するように頷いている。<br />
「でも、二人はいつも他人に優しかった……。どうして？」<br />
　ラァナはくすりと笑って答えた。<br />
「それはね。たしかに許し難いことをした人もいたけれど、同じくらい……いいえ、それ以上に、わたしたちに優しくしてくれた人がいたからよ」<br />
　オーランが補足するように続ける。<br />
「人の優しさが無ければ、私たちは今こうして暮らすことは出来ていなかっただろうね。研究所を出ることは叶わなかったし、こちらに着いてからも沢山の人に多くの恩を受けた」<br />
「わたしたちはその『恩』を返しているの。直接伝えることが出来なくても、巡り巡って――いつか届く。……そう、信じてるのよ」<br />
「巡り巡って……」<br />
　ファルの呟きに頷いたラァナは、オーランと微笑みあった。<br />
　ふとレンと視線が合えば、彼も同じように優しく微笑んでくれる。<br />
　その時、天啓のように閃いたものがあった。<br />
　ファルは、そうかと己の中で納得する。<br />
　レンに与えられた光――。それを今度は、自分が広めていく番なのだ。 -- Posted by 桜 〔1098文字〕 No.116 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 13 Oct 2026 19:18:20 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「また遊びに来てね」<br />
「釣りの約束も忘れないでくれよ」<br />
　翌日、そう言って別れを惜しんでくれるオーランとラァナに手を振って、レンとファルはアカデミーへの帰途を辿る。<br />
　乗合馬車の停留所まで、久し振りに二人きりだった。<br />
「なんかあっという間だったなぁ」<br />
「……レンって人たらしだよな」<br />
　楽しかったな、と笑うと何故かファルからは呆れた視線が返ってくる。<br />
「急になんだよ？」<br />
「まさか二人があそこまでお前を気に入るとは、って話。これから一人で帰ろうものなら『レンくんは？』って、毎回聞かれそうだ……」<br />
「えぇ～、なにそれ照れる」<br />
　てれてれと頬を掻いていると、むっとした顔のファルからべしりと叩かれる。しかし結局、顔を見合わせて吹き出してしまい、二人でけらけらと笑いながら歩く。<br />
「――でもよかったよ。レンが『研究者になる』って言ってくれて」<br />
　一通り笑い転げた後、改まってファルがそんなことを言った。<br />
「あ、ごめんな。何の相談もなく……」<br />
「いいって。事前に言われてたら、絶対止めてたし。僕も……、ずっと聞きたかったこと聞けたからさ」<br />
「――そっか」<br />
　それは昨夜、レンが「研究者になる」と宣言した後のことだった。 -- Posted by 桜 〔541文字〕 No.115 ]]></description>
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	<pubDate>Tue, 13 Oct 2026 13:19:05 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　ファルの両親との邂逅から、日々は穏やかに過ぎていった。<br />
　なんでもない、だが都会育ちのレンには新鮮な田舎での暮らしはとても楽しく、レンは毎日を目一杯楽しんだ。<br />
　ファルの父オーランとは約束通り釣りをして、母ラァナとは彼女の家庭菜園の草むしりを手伝い――。もちろんファルとも毎日呆れるほど笑って過ごして、帰省期間最後の夜はあっという間に訪れていた。<br />
「あ～……、ラァナおばさんの手料理も、今日で最後かぁ……」<br />
「あら。また食べに来たらいいわ。レンくんならいつでも大歓迎だもの。ねぇ、あなた」<br />
　ラァナから話を振られたオーランも、満面の笑みで頷いている。<br />
「もちろんだよ。今度は滝壺の方まで釣りに行こう。あっちはもう少し大振りの魚がいるんだ」<br />
「ちょっと父さん。レンは山歩きには慣れてないんだ。怪我させないでくれよ？」<br />
「わかってるわかってる」<br />
　あたたかな家族の会話に、レンはどこかほっとした気持ちで笑みを浮かべる。<br />
　ファルの過去を知らなければ、彼らが非道な研究の犠牲になっていたなど、とても考えられなかっただろう。<br />
　今、彼らはとても幸せそうだ。過去の傷など無かったかのように――。<br />
「……オーランさん、ラァナさん」<br />
　レンはカトラリーを置いて、真剣な眼差しで二人を見た。<br />
　それまでと雰囲気の変わったレンに、ファルも含め三人は何事かと不思議そうにしている。<br />
　レンは一度深く深呼吸をする。<br />
　今更、蒸し返すべきではないのかもしれない。<br />
　だが――、レンは意を決して口を開いた。<br />
「俺はずっと、『蝶の民の研究者』を志していました」<br />
「レン！？」<br />
　突然何を言うのかと気色ばむファルに、視線だけで「言わせてほしい」と伝える。<br />
　その決意が伝わったのか、椅子から腰を浮かしかけていたファルは、姿勢を正してから両親に頭を下げた。<br />
「父さん、母さん。レンには……、僕たちの昔のことを話した。勝手をして、ごめん」<br />
　レンの不意の発言とファルの謝罪に二人は何を思っているのか。黙したままの彼らに促され、レンに続きを口にする。<br />
「でも……、最近になって、俺が――軽々しく踏み込んでいい世界ではないのではないか、と悩むようになったんです」<br />
「レンくん」<br />
　オーランがそっと口を開く。<br />
「『大切にしたいもの』は、分かったかい？」<br />
　彼はレンが初めて会った時に口にした「悩み」が、今話そうとしている内容なのだと察しがついたのだろう。優しい声でかけられた問いに、レンはこくりと頷いた。そして、オーランとラァナに笑みを向けた。<br />
「おじさん、おばさん。俺、ここでの毎日がすっごく楽しかったんだ。だからさ、『蝶の民』の誰もがこうやって笑って生きられるようにしたい」<br />
　レンは心配そうな顔をしていたファルに視線を向けた。そして、宣言する。<br />
「俺、研究者になるよ」<br />
　もう迷いはなかった。 -- Posted by 桜 〔1215文字〕 No.114 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 13 Oct 2026 12:34:21 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「あれが僕の家……」<br />
　森から出たレンたちは、長閑な田舎道を進む。<br />
　視線の先に小さな家が見えてきて、それを指差したファルが呆れ顔で溜息をついた。<br />
　玄関先には二人の人物がいて、どうやら片方は何やら怒られている。<br />
「あー……。あれ、うちの両親。父さん、またなんかやったのか……？」<br />
「また？」<br />
「たぶん、僕らが来る日に釣りでも行って、『帰ってくるのが遅い』って怒られてるだけだよ」<br />
　ファルの口振りから、これがよくある他愛のない口喧嘩なのだと悟る。近付くごとに声がはっきりと聞こえてきたが、ファルの言った通りの内容で、女性の方から一方的に小言を言われているようだった。<br />
「ん、あれ……？」<br />
　もう一方の男性の姿を見て、レンは首を傾げる。<br />
　そうしているうちにも二人はこちらの存在に気が付いたようだった。<br />
「ああ、おかえり。二人ともよく来たね」<br />
　ファルの父が振り返って微笑んだその顔に、レンは思わず「あ」と声を上げた。<br />
「さっきのおじさん！？」<br />
「やっぱり君がレンくんだったか」<br />
「え、何？　知り合い？」<br />
　不思議そうな顔をするファルとその母親に、レンは彼と顔を見合わせてくすくすと笑った。 -- Posted by 桜 〔530文字〕 No.113 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=113</link>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Sun, 04 Oct 2026 14:07:46 +0900</pubDate>
</item>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
「なあなあ。やっぱ俺、もうちょい探検してきていい？」<br />
　二人でしばし自然を散策し、休憩と川近くの木陰に腰を下ろしたファルを尻目に、レンは上流を指差してそう言った。<br />
「いいけど……、あんまり遠くまでは行くなよ？　僕もそこまで土地勘ないし、見つけられなくなる」<br />
「だーいじょうぶだって。ちょっと川沿いに歩いてくるだけだし」<br />
　それなら、と頷いたファルに手を振って、レンは小川の流れを辿って歩き出す。<br />
　途中で拾った木の枝を軽く振り回しながら、ゆっくりと歩を進めた。<br />
　川のせせらぎと、鳥の声と、それから木々のざわめきが聞こえてくる。<br />
　街の喧騒とは全く違うが、森の中も想像よりずっと音であふれているのだと気付く。ファルと別れ、一人になったせいか、それらがより存在感を増して聞こえていた。<br />
「……あ、人だ」<br />
　前方に人影が見えて、レンは一度足を止めた。<br />
　その人物は川岸に座り込み、竿らしきものを握っている。どうやら釣り人のようだ。<br />
　歩みを再開したレンは、その人物にひょこひょこと近付いて、声をかけた。<br />
「こんにちは、おじさん。ここって何が釣れるの？」<br />
　顔を上げた男は突然現れたレンに警戒する様子もなく、朗らかに笑った。<br />
「いや、これといって。小魚ばかりさ」<br />
「ふぅん」<br />
　レンは彼が釣り糸を垂らす先を覗き込んでみる。だが確かに彼の言葉通り、川は澄んでいて大きな魚の姿はない。手の平にも満たない程度の小魚がすいっと泳いでいくのが見えた。<br />
「君、ここいらじゃ見ない顔だね。旅行者かい？」<br />
「うん。友達の帰省についてきたんだ」<br />
　返答しながらもじーっと川面を見つめていると、釣り人はおかしそうにくすくすと笑った。<br />
「そんなに面白い？」<br />
「面白いよ！　こんなに綺麗な川……初めて見た」<br />
　レンはようやく顔を上げて、男の隣に腰を下ろす。<br />
「俺、王都に住んでてさ。こんなに自然の多い所、初めてなんだ」<br />
「そうか。……じゃあ、釣りもしたことない？　やってみるか？」<br />
「え！　いいの――」<br />
　嬉々として頷こうとして、はたとファルのことを思い出す。<br />
「……ごめん、今はやめとくよ。友達を待たせてるんだ。あ、でも。俺、何日かこの近くにいるんだ。だから、その間にもう一度会えたら……お願いしていいかな？」<br />
　笑顔で了承してくれた釣り人にお礼を言って、代わりに暫く彼の隣に腰を下ろし、釣り糸が水面を揺らすのを見つめる。<br />
「さっき、友人の帰省に同行してきた、って言っていたね。仲が良いんだな」<br />
「んー、まあね。アカデミーの一年からの付き合いで……。さすがに帰省先にまで付いてきたのは初めてだけどさ。今年で卒業だからって」<br />
　レンはそこで言葉を一度切り、苦笑して続けた。<br />
「俺が……その、進路に悩んでるからさ。心配させたんだと思う。優しいやつなんだ。自分だって大変なのに」<br />
　急に持ちかけられた今回の旅行が、ファルの気遣いだとレンも勿論分かっていた。もしかすると、解剖の際に取り乱したことで負い目すら感じてるのかもしれない。<br />
　今レンが悩んでいるのは、確かにあの日のファルが契機ではあるが、彼には何の責任もないのに。<br />
　ちらりと釣り人の表情を窺う。彼の目はただ穏やかで凪いでいた。<br />
　今日会ったばかりの、名前すら知らない相手だ。――だからこそ、気兼ねなく聞けた。<br />
「おじさんは……、何かに悩んだ時って、どうやって決めてる？」<br />
「悩んだ時、か。そうだな……」<br />
　彼の目が眇められ、その視線はどこか遠くを透かし見るかのようだった。<br />
「私は……、『最も大切にしたいものは何か』を、己に問いかけて決断したね」<br />
「大切にしたいもの……」<br />
　彼はレンの方を向いて微笑んだ。<br />
「そう。人でも物でも、信念でもいい。それを守る最善の方法を選ぶんだ。どうしても譲れない、たった一つのために」<br />
「おじさんは、その『大切なもの』を守れた？」<br />
　頷いてくれるかと思ってレンは聞いた。だが予想に反して、彼は曖昧に微笑む。<br />
「さあ、どうかな……。苦労も多かった。もっと良い道があったのではないか、と考える日もある。でも――」<br />
「でも？」<br />
「後悔はしてないんだ」<br />
　からりと笑った男に、レンは驚いて目を見開く。<br />
「守れたか、わからなくても？」<br />
　その問いには、彼は迷わず頷いた。<br />
「もちろん、『あの時もっとああしていれば』という後悔なら無数にあるさ。けれど、大切なものを『これだ』と決めた自分には、欠片も後悔していないんだ」<br />
「……そっか」<br />
　何か胸の中に、ぽっと光が灯った気がした。<br />
　レンはそんなあたたかな気持ちにニッと笑って、立ち上がった。<br />
「何か参考になったかな」<br />
「うん。まだはっきりしたわけじゃないけど、少し掴めそうな気がする。後は自分で考えてみるよ」<br />
「そうか」<br />
　彼はやわらかく微笑んで頷いた。<br />
　レンは心も身体も少し軽くなった気がして、男の座っていた石の上から、ぴょんと飛び降りる。<br />
「ありがとう、おじさん！　あ、また会ったら釣り教えてね！」<br />
　手を振りつつ元来た方向へ戻るレンに、彼も手を振り返してくれる。レンは意気揚々と川沿いを進んで、ファルのところへと戻った。<br />
　彼はレンの顔を見て、目を瞬かせる。<br />
「何かあったのか？」<br />
「え？」<br />
「いや……、少し表情が明るい気がして」<br />
　一目で指摘されるほど分かりやすかったのか、と少々照れつつ、レンは笑みを返した。<br />
「ああ、ちょっとな！」<br />
　どことなく照れくさくて、先程出会った親切なおじさんの話はそれとなく誤魔化しつつ、もうしばし森を散策したあと、漸くファルの実家へと向かった。 -- Posted by 桜 〔2326文字〕 No.112 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=112</link>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Sun, 04 Oct 2026 14:06:18 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
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<br />
　王都から郊外の町へ乗合馬車で二日。<br />
　そこから更に徒歩で半日ほど歩いた場所に、目的地がある。<br />
「長閑なとこだなー」<br />
　レンはファルの隣を歩きながら、田園風景の広がる辺りをきょろきょろと見渡した。<br />
「綺麗だろ。でも、頻繁に来るにはちょっと遠い」<br />
「たしかに」<br />
　肩を竦めるファルに、レンはくすと笑う。<br />
　ファルの両親は、息子のアカデミー入学に合わせて、町中からこの場所へ移り住んだという。ファル自身も数えるほどしか来たことがないようだが、現在両親が穏やかに暮らす場所を愛しているのが見て取れた。<br />
「……ファルは、卒業したらこっちに行くのか？」<br />
　今は毎日顔を合わせているが、アカデミーを出てしまえばそうはいかないだろう。だが、住む場所までこれほど大幅に離れてしまえば、一層会うことは難しくなる。<br />
　その事実に寂しさを覚えて思わず訊ねると、ファルはきょとんとした顔をした。<br />
「いや……。まだはっきりとは決めてないけど、多分王都を出ることはないよ」<br />
「あ、そなの？」<br />
「ああ。だって――」<br />
「『だって』？」<br />
　続きを促すが、ファルは口を噤み首を振った。<br />
「いや……、その。なんていうか、仕事も多いし？」<br />
「まあ、そうだな」<br />
　王都はもちろん国一番に栄えた場所なので、村落に比べれば職種も求人も豊富なのは間違いない。<br />
　どことなく歯切れの悪い物言いを不思議に思いつつも、レンは納得して頷いた。<br />
「俺としては、ファルが近くにいてくれんの嬉しいよ」<br />
　にぱっと笑ってそう言うと、ファルはきょとりと目を瞬かせた後、視線を逸らして溜息をついた。<br />
「……レンのそういう所、ほんと」<br />
「何？」<br />
「…………なんでもない」<br />
　ファルは何故かもう一度溜息をつくと、顔を上げて今度は明るい調子で言った。<br />
「それより、予定より少し早く着きそうなんだ。近くの川でも散策してから行かないか？」<br />
「え、いいのか！？　ほら、王都ってやっぱし緑が少ないじゃん？　俺、こういうとこで前から遊んでみたかったんだよなぁ」<br />
　うきうきの隠せないレンに、ファルもくすりと笑う。<br />
「じゃあ決まりだな」<br />
「おう！」 -- Posted by 桜 〔916文字〕 No.111 ]]></description>
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	<pubDate>Sat, 15 Aug 2026 13:11:58 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　研究所を出て、寮までの帰り道を辿る。<br />
　ファルは、隣でじっと黙ったままのレンの横顔に目だけで視線を向けた。<br />
　鞄の肩紐をきつく掴み、俯き加減で歩を進める彼が何を考えているのか、全く分からない。<br />
　普段あっけらかんとして素直な人柄だからこそ、その何も読み取れない表情が、酷く心を落ち着かなくさせる。<br />
　ファルはレンから視線を外し、彼とエルジュの会話を反芻する。<br />
　所長からの伝言を聞いた時の強張った表情を見れば、レンが「研究者になること」へ迷いを感じているのは明らかだった。<br />
　ファルはきゅっと唇を噛んだ後、意を決して口を開いた。<br />
「なあ、レン」<br />
「……ん、あっ？　なに？」<br />
　思考の海から急浮上したような表情に、ファルは気付かない振りをして、なんでもないように聞こえるよう軽い調子で続けた。<br />
「夏季休暇、まだ暫く続くだろ？　今年はアカデミーも最終学年だし、近々帰省してこようと思うんだ」<br />
「あー、たしかファルのご両親って、今王都を離れて郊外に住んでるんだっけ」<br />
「ああ、そうだよ。……それでさ、レン」<br />
「ん？」<br />
　不思議そうに首を傾げるレンの方へ向いて言った。<br />
「もしよければ、なんだけど。一緒に……来ない？」<br />
「え？」 -- Posted by 桜 〔546文字〕 No.110 ]]></description>
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	<pubDate>Sat, 14 Mar 2026 12:58:47 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　記念墓地の慰霊訪問が終了し、一行は一度研究所へと戻った。<br />
　だが、後は今後の――提出物などの諸注意を聞いた後は、体験入所が終了。解散となる流れだ。<br />
　レンは帰る準備をしながらも、小さく溜息をついた。<br />
　みな既にちらほらと帰途へつき、現在部屋にはレンとファル、それからエルジュしかいなかった。<br />
「レン、そろそろ施錠しますので」<br />
「あ、すみません！」<br />
　エルジュの言葉に慌てて鞄を背負い、ファルと共に扉を潜る。<br />
　最後に退室したエルジュが鍵をかける音を聞きながら、彼に一言感謝を伝えようと足を止める。<br />
「――レン」<br />
　だが振り向いたエルジュが口を開く方が早く、レンはぽけと口を開いたまま目を瞬かせた。<br />
「所長からの伝言です。『この数日で君の熱意はよく伝わった。もし君がここを受けるのならば、我々は歓迎する準備を整えている』とのことです」<br />
　それは事実上、内定が約束されたも同然の言葉だった。<br />
　きっと少し前までのレンならば、飛び上がって喜んだはずだ。<br />
　だが、何故か心はもやもやとして晴れないまま、小さく頷いた。<br />
「……はい」<br />
　よろしくお願いします、と言えばいいはずなのに。それで、長い間抱いてきた夢が叶うのに。<br />
　だが、どうしてもそれ以上の言葉が出て来ない。<br />
　そんなレンにエルジュは、少し目を細めた。<br />
「それと……、ここからは私個人から、ですが――」<br />
　レンは俯いていた顔を上げる。目が合って、エルジュが続ける。<br />
「研究者を続けていれば、今回のようなことは発生します。もし抱えきれない……というならば無理をする必要はない、と考えます」<br />
「…………はい」<br />
「ですが、レン。私は貴方が良き研究者になれるとも感じていますよ」<br />
　エルジュが淡く微笑んだのに、レンは瞠目する。<br />
　レンが何も答えられずにいると、エルジュが続ける。<br />
「さあ、後は自分で答えを出すことです。――また会いましょう、レン」<br />
　レンは困惑を覚えたまま、去っていくエルジュの背中を見送るしかできなかった。 -- Posted by 桜 〔869文字〕 No.109 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Sat, 14 Mar 2026 11:56:14 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　記念墓地まで辿り着いた一行は、ここの管理人から話を聞き、その後記念碑が並ぶエリアへと足を踏み入れていた。<br />
　ファルはゆっくりと石碑の間を歩きながら、小さく息をついた。<br />
　いつもは祖父母の名前が刻まれた場所まで一直線に向かうため、違う道を通るのは少し景色が新鮮に映る。<br />
　また、いつ訪れてもあまり人気のないこの場所に、何人もの人影が見えるのも不思議な気分だった。<br />
　ファルはレン以外の体験入所者が物珍しげに石碑の間を散策するのを、少しばかり羨ましいような悲しいような気持ちで見つめる。<br />
　アカデミーの通常課程中に授業の一環で一度は訪れているはずだが、「普通」の国民にとっては、あまり来ることのない場所だ。<br />
　そういう生い立ちを持てたことが、ほんの少しだけ羨ましかった。<br />
　その時、そっと傍に気配を感じて振り返る。<br />
「……エルジュさん」<br />
「ファル、体調はどうです。きちんと眠れていますか？」<br />
　思わぬ質問に首を傾げながらも頷く。<br />
「え？　ええ、はい」<br />
「なら良かったです。繭の解剖にはショックを受ける人もいます。貴方も顔色が良いとは言い難かったので」<br />
　たしかに今回のようなことがなければ、そうそう解剖――それも羽化に失敗した被験者の肉体を見ることはない。人によってはトラウマになることもあるのだろう。<br />
　特に一見には<ruby class="decorationR">解<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">剖<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">の<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">様<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">子<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">に<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>ショックを受け、途中離脱したように見えただろうから、心配ももっともだった。<br />
「大丈夫です。そういう意味では、もう気にしていません」<br />
「そうですか」<br />
「あ、でも……」<br />
　所員でもない人間が聞いてもいいことなのかと言い淀むファルに、エルジュは続きを促すように小首を傾げた。<br />
「あの時亡くなった繭は……、その後どうなったんですか？」<br />
　あの様子を見て、まさか「そのまま打ち捨てられている」とは思わないが、それ以外にどうなるのか見当もつかず、おそるおそる訊ねる。<br />
　だがエルジュは、そんな事かとでも言うように軽く目を瞠って、記念墓地の奥へ視線を向けた。<br />
「通常はご家族の元へお返ししますが……。身寄りのない場合は、事前にご本人と話し合いをします。今回の場合ですと、一定期間引き取り手が現れないことを確認した後、あそこの合祀墓へと埋葬される手筈です」<br />
　ファルもエルジュの視線を追って、花で溢れたその墓を見る。<br />
　元々、この国までの亡命中に命を落とすなどして、遺体もしくは骨となって辿り着いた蝶の民を埋葬する場所だったと聞いている。<br />
　今はそういった人々も一緒にいるのだと聞いて、寂しくなくていいのかもしれないな、と思う。<br />
「……ちゃんと、人として扱ってくれるんですね」<br />
「当たり前でしょう。そもそも、こちらの手が及ばず死なせてしまった方でもあるんです。せめて最期くらいは最大限丁重に扱わなければ……」<br />
「そうですよね」<br />
　当然、という顔で言うエルジュに、どこかほっと力が抜けた。<br />
　レンも彼らと肩を並べていくのだと思えば、それがとても嬉しい。<br />
　ファルはふと視線を巡らせて、レンの姿を探す。<br />
「あ……」<br />
　彼はいつも訪れるファルの祖父母の名前を前に、じっと立ち竦んでいた。<br />
「……エルジュさん」<br />
　エルジュが目を瞬かせる。<br />
「レンは……、研究者になりますよね……？」<br />
　エルジュがレンの姿を捉え、目を眇めた。<br />
「……それは彼次第でしょう」<br />
　彼の返答は曖昧だった。<br />
　それは、入所への面接や試験について言っているのか、それともレンの心の内についてを言っているのか――。<br />
　もしもレンの目標が変わってしまったのなら、ファルはきっとそれでも彼の選択を尊重するだろう。<br />
　けれど――、もし、自身の過去やそれを吐露したことが、夢を叶えることを躊躇わせているのだとすれば……。<br />
　それは耐え難いほどやり切れない。<br />
　ファルはきゅっと拳を握って、レンの沈んだ横顔を見つめるのだった。 -- Posted by 桜 〔1636文字〕 No.108 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Fri, 13 Mar 2026 13:37:49 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　いつもはレンと二人で歩く記念墓地までの道を、今日は大所帯で辿る。<br />
　ファルは吹き抜ける冷たさの混じる風に目を細めた。<br />
　先導する研究所の所長だという男の後をついて歩きながらも、彼の声は耳を素通りしてゆく。<br />
　蝶の民研究所の体験入所――最終日。<br />
　研究所の所員たちと共に、ファル、レン、そして残りの体験入所者三人は、王都の外れにある記念墓地に訪れていた。<br />
　研究者という道を選ぶのなら、決して避けては通れない、非道な研究の犠牲となった人々についての話。それらを訥々と語る所長の言葉を聞き流しながら、空を見上げる。<br />
　実際その「非道な研究」が行われていた現場にいた過去を持つファルとしては、彼の言葉はやはりどこか現実感に欠けている。<br />
　実際に経験したことではないから当然といえば当然だろう。<br />
　それに今のファルには、それ以上に気にかかることがあった。<br />
　隣へチラと視線を向ける。<br />
　普段ならば真剣な顔で、それらの言葉を聞いているであろうレンのことだ。<br />
　だが彼もどこか上の空な様子で、だが同時に深く思い悩むような表情もしている。<br />
「……、」<br />
　ファルはそんな彼に声をかけようか迷って、やはり口を閉じた。<br />
　こうして口を噤むのも、レンが思い詰めた表情をしているのも今にはじまったことではない。<br />
　死亡した繭の解剖を見た日――いや、ファルが過去を語ったあの時から、もうずっとその表情が晴れないのだ。<br />
　やっぱり僕のせいだろうか――。<br />
　ファルはそんな罪悪感にチクチクと蝕まれている。<br />
　今彼が何を考えているのかは、何度も聞こうとして聞けず、正確なところは分からない。<br />
　だが、その表情が曇るきっかけとなったのは、間違いなくファルが過去を吐露してしまったせいだろう。<br />
　はじめは、「ファルを体験入所に誘ってしまった」とでも後悔しているのかと思っていた。だが、彼の誘いを受けたのも、解剖に立ち会うと決断したのもファル自身だ。レンを責めるつもりもないし、彼がもし謝罪でもしてこようものなら、そう伝えるつもりだった。<br />
　だが、沈んだ様子を見せるようになって一日が経ち、二日が経ち――、もしかするとレンが思い悩むのは違う点なのかもしれないと思うようになった。<br />
　それが「何」なのかまでは分からなかったが。<br />
　自分はレンの存在に、とても救われている。<br />
　繭の臭いを契機に蘇った記憶は、決して愉快なものではない。それでも、そのことについて一種の区切りが付けられているのは、あの日、あの時に、彼が傍でじっと話を聞いてくれたからだ。<br />
　そんなレンが悩みを抱えているのならば、自分も支えたいと思うのは当然だった。<br />
　だが不用意に訊ねてしまえば、「悩んでいる」ということすら隠されてしまうのではないかと怖くて聞けずにいる。<br />
「――レン、行こう。置いていかれそうだ」<br />
　自然と遅くなっていた歩調のせいで、前方を進む一行と、少しばかり距離ができていた。<br />
　ファルが声をかけると、レンがハッとしたように顔を上げる。<br />
「あ、そうだな。ごめん」<br />
　早足で歩きはじめた彼の背中を、ファルは見つめるしかできないでいた。 -- Posted by 桜 〔1323文字〕 No.107 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Wed, 11 Mar 2026 12:04:57 +0900</pubDate>
</item>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　深夜。<br />
　碌に眠れぬまま目を覚ましたレンは、すやすやと寝息を立てるファルを横目に、部屋をそっと抜け出した。<br />
　あまりにも眠れないため、水でも飲もう――と思ったはずだったが、足は食堂の方ではなく外へと向かう。<br />
　通常課程の頃とは違い、門限も出入りの制限もあってないような上級課程の寮は、まだ人の気配がする。<br />
　建物の外まで出て上を見上げれば、一つ二つ、まだ明かりのついている部屋が見えた。<br />
　今のレンのように眠れない人がいるのか、それとも逆に寝落ちしてしまったまま、消灯していないだけだろうか。<br />
　そんなことを考えながら、寮の周囲をゆっくりと歩く。<br />
　今日は本当に色々なことがあった。<br />
　死にかけた繭を救い、解剖を見て――、<br />
「っ……」<br />
　耳にファルの叫びが木霊する。<br />
　レンは無意識に足を止め、俯いて唇を噛んだ。<br />
　あの後、一通り吐き出せたからか随分すっきりした様子のファルと共に、所員への挨拶だけをしてすぐ帰宅した。<br />
　彼らは自分たちが解剖にショックを受けたのだろうと考えてか、あまり気にしないようにと声をかけてくれた。<br />
　たしかに、覚悟が足りていなかったとレンは感じている。<br />
　だがそれは、所員たちが懸念した点についてではない。<br />
　……エルジュだけは何か思うところがあったのか、そういった声かけをすることはなかったが。<br />
　レンは小さく溜息をつき、暗い空をぼんやりと見上げる。<br />
　番号で呼ばれる実験体。非人道的な行為が常態的に行われる環境で生きていたファル。その心に刻まれた傷は、レンが想像しているよりも、ずっとずっと深い。<br />
　そして、同じような傷を抱える人々は、ファル以外にもこの国に沢山生きて、生活をしている。<br />
　ファルと共に定期的に訪れるようになった、他国で犠牲となった蝶の民を弔う記念墓地の光景を思い出す。<br />
　あそこに刻まれる名前は、今もなお増えているのだ。<br />
　蝶の民の研究者になるということは、彼らと、今生きる人々の思いを受け止め、共に未来へ繋いでいくということ。<br />
　その、覚悟がなかった――。<br />
　レンには彼らの気持ちを真に理解できる日は来ない。ましてや、自分は「蝶の民」ですらない。<br />
　俺が軽々しく踏み込んでいい世界なのだろうか……。<br />
　憧れだけではままならない。<br />
　その現実がレンを深く思い悩ませていた。 -- Posted by 桜 〔996文字〕 No.106 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Wed, 04 Mar 2026 12:07:51 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
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<br />
　建物の外に出たレンは、座れる場所を探して視線を巡らせた。<br />
　丁度、裏手の方にベンチを発見して、ファルを座らせると自分も隣に座る。<br />
　黙って俯いたままのファルの背を、空いた手でそっと撫でる。<br />
　そうしていると、少しずつ握り締める力が緩んでくるのが分かった。<br />
「……大丈夫か？」<br />
　そっと声をかけると、ようやく彼の顔がゆっくりと上げられて、こちらを向く。先程の虚ろな目で派なくなっていることにほっとしながら、レンは背を撫で続けた。<br />
　ファルはレンの言葉には答えず、すっと遠くの空を見る。<br />
「――同じ、牢にいたおじさんだった」<br />
　唐突に話しはじめたファルの言葉を、レンは黙ったまま頷いて続きを促す。<br />
「名前は知らない。あそこじゃ、番号で呼ばれるのが普通で……八十六って呼ばれてた人だった」<br />
「……うん」<br />
「優しい人でさ。僕も、大好きだった。でもある日、帰ってこなくなった」<br />
　ファルは坦々と続ける。<br />
「一週間経って、二週間経って……。きっと殺されてしまったんだ、って諦めた。急に人が消えるのも、普通のことだったから」<br />
　言葉を切ったファルは、上げていた顔を伏せて続けた。<br />
「その日、連れていかれた部屋で……、<ruby class="decorationR">あ<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">の<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">臭<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">い<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>がしたんだ」<br />
　レンは、背を撫でる手を思わず止めてしまった。<br />
「そこには筋肉と骨が露出した『何か』があった。かろうじて大人の人間なのはわかったけど、表皮は全部溶けてて、誰かなんて分かったもんじゃない。――分からない方が、よかった……っ」<br />
　握られた手に、再度力が籠る。<br />
　レンはかける言葉が見つからないまま、ファルの叫びを聞くしかなかった。<br />
「あの『肉塊』を、奴らは八十六番って呼んだんだ……！！」<br />
　指の骨が砕けるんじゃないか、と思うほど強い力で手が握り締められる。<br />
　痛かった。けれど、ファルの心を襲っているであろう痛みに比べれば、どれほどのものだろうかとも思う。<br />
「……ファル」<br />
　背に回した手で彼の肩を引き寄せ抱きしめる。<br />
「ごめんな」<br />
　軽い気持ちで彼の傷を抉るような場所に誘ってしまったことへの謝罪だった。<br />
　自身の肩に彼の頭を引き寄せて、そのまま髪を撫でる。<br />
　今できることが、これくらいしか思い浮かばなかったからだ。<br />
　ファルは空いた手をレンの背に回して、ぎゅっと縋りつくように服を掴んだ。<br />
　そして、ぽつりと言う。<br />
「レンが謝ることじゃないだろ……」<br />
「……そーだな」<br />
　それでも握り締められた手も、抱擁も、解かれることはなかった。 -- Posted by 桜 〔1070文字〕 No.105 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 03 Feb 2026 00:10:59 +0900</pubDate>
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	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
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<br />
　レンたちは研究所の奥へ奥へと向かうエルジュの後をひたすら追っていた。<br />
　初日の案内では訪れなかった区画で、薬品のような何かの臭いがする。<br />
　渡されたマスクと髪を覆う帽子とを身に付け、そこに白衣を纏ったエルジュについて、ようやく解剖室へと辿り着く。<br />
「戻りました」<br />
　そう声をかけて入室したエルジュに続き、レンはそろりと中へ足を踏み入れる。<br />
「っ……」<br />
　マスク越しにも感じた臭気に息を飲む。腐臭にような、それでいて微かに甘みのある――嗅いだことのない臭いだった。<br />
「これ……」<br />
「羽化に失敗した繭の、中身の臭いです」<br />
　エルジュが囁き声で説明をする。彼に、こちらへと促されて、部屋の中央へと足を向けた。<br />
　そこには人ひとりが乗りそうな台と、それを囲むように三人の所員がいた。<br />
「……？　他のみんなは……」<br />
　レンの疑問に所員の一人が首を振った。どうやら、立ち合いをせずに帰ったようだ。<br />
　だが、台に乗せられた人物を見た時、レンは彼らの選択が正しい、と思ってしまった。<br />
「――っ！」<br />
　思わず口元を手で覆って、飛び出しかけた悲鳴を飲み込んだ。<br />
　頭と、胴体は、確かに人のそれだ。そこだけ見れば眠っているだけのようにも見える。<br />
　しかし、その手足は――、途中で溶けて消えてしまったかのように無くなっている。右腕は肘まであるが、その先は筋肉と骨が剥き出しで、手首から先がない。左腕は肩の付け根から存在せず、右足は膝まであるものの、中の骨や肉が未形成なのか、重力に従って半液状のように広がっている。左足は足首から先が無かった。<br />
「繭の中では、生命維持器官以外が溶ます。そして、再び肉体が形成される際は、脳や内臓といった場所から再構築されるんです」<br />
「ああ、だから手足が……」<br />
　人間の肉体にとって重要な器官から再構成され、その後に四肢が形成される。だから、その過程で死んでしまった蝶の民は、このような状態になるのだろう。<br />
「――では、はじめましょうか」<br />
　所員の一人が口を開き、黙祷をはじめる。レンもそれに続いて、目を閉じた。<br />
　暫しの沈黙が過ぎレンが目を開くと、台の傍にいた人々もぱらぱらと動きはじめていた。<br />
　手術で使うようなメスと鉗子、それからハサミのようなものが主な道具のようだ。<br />
　レンは邪魔をしないように一歩離れて、解剖の様子を見守る。<br />
　体表の状態などの記録を取った後は、メスが胸部や頭蓋を通り、中身が露出していく。所員はそれらを観察し、何かの長さを測ったり、細々と何かを書き付けていた。<br />
　レンはもちろん、通常の人間の解剖も見たことはないので、どこが違っていて、どこが同じなのかもよく分からない。だが、ふと疑問を覚えて隣でついていてくれるエルジュに、声を潜めて問いかけた。<br />
「あの……、骨とかってどうなってるんです？」<br />
　ただの小さな薄い刃物でしかないメスが頭蓋骨を割き、小さなハサミが肋骨を切断する様子は、素人目にも異様だ。<br />
　切れ味がすごくいい魔導具？　いや、というよりも――<br />
「なんか、すごく柔らかそうに見える、というか」<br />
　レンがそう言うと、エルジュが頷いて答える。<br />
「その通りです。羽化前の肉体は、平常時より脆く壊れやすい。骨も羽化寸前まで、殆ど強度がないんですよ」<br />
「へぇ……」<br />
　蝶の民はあらためて不思議な生態をしているな、と思う。<br />
　彼らの羽化を「生まれなおし」などとも表現することはあるが、母体の胎内で行われる肉体の形成とは、まるで違うもののようだ。<br />
　その時、鉗子の一本が所員の手から滑り落ち、カシャンッと耳障りな音を立てて床にぶつかった。<br />
「っ！？」<br />
　その音と同時に、後ろから手を掴まれて、レンはビクッと肩を跳ねさせた。<br />
「いっ、……ファル？」<br />
　強い力で掴まれ、小さく呻きながら背後を振り返る。<br />
　俯いた彼の顔を覗き込む。<br />
「ファル……？」<br />
　顔色が先程よりも悪い。瞳孔が開いていて、焦点が合っていなかった。<br />
　なのに、手を掴む力だけは強く、まるで……助けを求めているようだと感じてしまう。<br />
　レンはきゅっと唇を噛むと、顔を上げた。<br />
「すみません。俺たち、少し外の空気を吸ってきます」<br />
　ファルの手を引いて、部屋を出る。<br />
　どうしてここにファルを連れてきてしまったんだろう。<br />
　そんな後悔をしながら。 -- Posted by 桜 〔1803文字〕 No.104 ]]></description>
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	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 03 Feb 2026 00:09:37 +0900</pubDate>
</item>
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<item>
	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
<a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6%5f%e4%ba%8c%e7%ab%a0" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶_二章">#夢見る少年と未羽化の蝶_二章</a> 12</span><br />
<br />
　レンたちは羽化した少年を医師へと引き継いだ後、ようやく外へと出た。<br />
　一時は生存も危ぶまれた少年だったが、今のところ大きな問題もないようだった。正確なところはこれからはっきりするだろが、エルジュによると、身体に機能面の障害が発生しているならば、既に分かる形で出ていることが多いらしい。<br />
　つまり、ひとまずは安心して良いとのことで、レンもファルもほっとしていた。<br />
　少年の家を出たあと、エルジュがすぐに通信用の魔導具で研究所と連絡を取りはじめた。小型の通信装置はまだまだ高価なものなのだが、こういった不測の事態に備えて、外回りの際には携帯を義務化されているようだった。<br />
「――ええ、はい。彼は無事……、はい。はい……、え？」<br />
　エルジュの視線がこちらを向き、レンとファルは顔を見合わせる。<br />
　程なくして通信を終わらせたエルジュに、レンが問いかけた。<br />
「あの、何かありましたか？」<br />
「ええ……。……先程、研究所にてお預かりしていた繭が一人、亡くなられました」<br />
「――っ！」<br />
　蝶の民にも、遺伝病のようなものと言えばいいのか、家系的に羽化時に問題が発生しやすい血筋の者がいるらしい。そういった人々の中には生存率を上げるために研究所内での経過観察を望む場合があるという。そんな幾人かの内の一人が亡くなった、という報告だった。<br />
　レンたちが言葉を失っていると、エルジュが静かに口を開いた。<br />
「魔素の影響なのか……、こういった異常が同時に発生することは稀にあります。先程の彼は助けられましたが――、手を尽くしても力が及ばないこともあるのが現実です」<br />
　エルジュは通信の魔導具を鞄にしまってから、レンたちを順に見た。<br />
「これから、死亡した被験者の解剖が行われます」<br />
　隣でファルがひゅっと息を飲んだ。<br />
「レン、貴方は入所を希望していましたね？」<br />
「は、はい」<br />
「所長が体験入所者の立ち合いを許可しています。今後、貴方が研究者の道を進むのならば、見ておくべきかと」<br />
「――はい」<br />
　羽化できずに死んでしまった被験者を見る――。そのことに、恐怖を感じないわけではなかった。<br />
　だが、エルジュの言う通りだ。目を逸らすべきではない。<br />
　レンがしっかりと頷くと、エルジュが頷き返してから、今度はファルの方を見た。<br />
「ファル」<br />
「…………はい」<br />
　彼は見るからに青褪めていて、顔色が悪かった。<br />
「これは、体験入所のプログラムには含まれていません。立ち合いを希望しないのであれば、ここで帰っても何も問題ありませんよ。……どうしますか」<br />
「ファル……」<br />
　レンの名を呼ぶ声も聞こえていないのか、ファルは青い顔のままエルジュを見ていた。<br />
　このまま帰った方がいいのではないか。<br />
　レンはそう思ったが、ファルは不意にぎゅっと目を閉じて息をはくと、再び顔を上げた。<br />
「……行きます」<br />
　エルジュの目が少しだけ見開かれる。彼もレンと同じく、帰宅を選択すると予測していたのだろう。<br />
　だが、ファルの覚悟をした目を見て、二度は聞かなかった。<br />
「わかりました。では二人とも、戻りましょう」<br />
　足早に研究所への道を戻るエルジュの後を追う。<br />
　レンはファルに何も声をかけられぬまま、無言で歩を進めるのだった。 -- Posted by 桜 〔1366文字〕 No.103 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=103</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=103</guid>
	<category>c0006</category>
	<pubDate>Tue, 03 Feb 2026 00:08:19 +0900</pubDate>
</item>
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<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 分岐２－Ａ ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> 分岐２－Ａ</span><br />
Ａ：「じゃあ、部屋で刺繍でもしているわ」<br />
<br />
<br />
//背景：主人公部屋・夕<br />
<br />
マリアはオリヴィエの用意してくれた刺繍に取りかかった。<br />
感嘆されるほど上手くもなければ、何を刺しているか分からないほど下手でもない、いたって普通の腕前だが、ぼんやり考え事をするには、丁度いい。<br />
季節に合わせて、落ち葉でも刺そうかと、橙色の糸を手に取ったところで、エゼルが茶器を持って、部屋に入ってきた。<br />
<br />
マリア「ありがとう、エゼル。昼間はほとんど残してしまってごめんなさいね」<br />
エゼル「いえ。お嬢様の責任ではございませんので」<br />
<br />
それきりエゼルは黙ってしまったが、今はその沈黙が妙に心地よかった。<br />
茶を注ぐ音が止まり、そっとカップが傍に置かれる。<br />
マリアは、退室しようとするエゼルの背中に声をかけた。<br />
<br />
マリア「ねぇ、エゼル」<br />
エゼル「はい」<br />
<br />
彼が足を止めて振り返る。<br />
<br />
マリア「私、王太子殿下と婚約したの」<br />
エゼル「はい」<br />
マリア「知ってた？」<br />
エゼル「はい」<br />
<br />
坦々とした返答に、マリアはどこか落ち着かないものを感じて、問いを重ねた。<br />
<br />
マリア「皆、知っていたのかしら」<br />
エゼル「『皆』が、どの範囲を示すのかは分かりませんが、おそらく」<br />
マリア「……お父様も、以前から知っていらっしゃったのよね」<br />
エゼル「家長である旦那様がご存じないとは考えられかねます」<br />
マリア「そうよね……」<br />
マリア「どうして、教えてくれなかったのだと思う……？」<br />
エゼル「…………」<br />
<br />
エゼル<br />
「旦那様のご配慮かと。確定事項でないことをお耳に入れて、お嬢様を混乱させたくなかったのでは、と愚考いたします。旦那様は……、お嬢様のことを、大切に思っていらっしゃいますから<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２－１</span><br />
Ａ：「そうだと……、嬉しいわね」<br />
Ｂ：「……そうかしら」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２－１－Ａ</span><br />
Ａ：「そうだと……、嬉しいわね」<br />
<br />
<br />
エゼル「きっと、そうです」<br />
<br />
マリア（今、エゼルが笑った……？）<br />
<br />
//エゼル：通常<br />
<br />
マリア（気のせい、かしら……？）<br />
<br />
珍しい彼の表情に、呆然としていたマリアは、自分が針を持っていたことを忘れてしまっていた。<br />
<br />
マリア「――――いっ！」<br />
<br />
思い出したのは、指先に鋭い痛みが走った後だ。<br />
<br />
エゼル「お嬢様！」<br />
マリア「え……」<br />
<br />
//スチル：執事ルート分岐前（血の滲んだマリアの指先に、ハンカチを当てるエゼル）<br />
<br />
マリア「あ、あの、エゼル……」<br />
<br />
彼があんな声を出したのを聞いたのは、初めてかもしれない。指先にぷくりと浮かぶ血よりも、そちらの方に驚いて、固まってしまう。<br />
<br />
エゼル「失礼いたしました。すぐに手当てを」<br />
<br />
エゼルはサッと立ち上がると、手当ての道具を持ってくると言って、部屋を立ち去った。<br />
<br />
マリア「……今日は、珍しいことばかりだわ」<br />
<br />
不思議なことをあるものだと、マリアはエゼルが戻ってくるまでの間、ぼんやりと彼が出て行った扉を見つめていた。<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２－１－Ｂ</span><br />
Ｂ：「……そうかしら」<br />
<br />
<br />
マリア「王太子妃なんていう荷の重いもの、私が嫌がるとでも思ったのではないかしら……」<br />
エゼル「…………、質問は以上でしょうか」<br />
マリア「え、ええ。ごめんなさい。呼び止めてしまって」<br />
エゼル「いえ。それでは、失礼いたします」<br />
<br />
立ち去っていくエゼルを見送り、マリアは小さく溜息をついた。<br />
<br />
マリア「もう少し、打ち解けてほしい……。そう思うのは、我儘なのかしら」<br />
<br />
マリアは一人になった部屋で、刺繍を再開した。 -- Posted by 桜 〔1447文字〕 No.102 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=102</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=102</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:26:00 +0900</pubDate>
</item>
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<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 政略結婚について ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> 政略結婚について</span><br />
<br />
//背景：主人公部屋・夕<br />
<br />
オリヴィエ「お帰りなさいませ、お嬢様」<br />
マリア「オリヴィエ……」<br />
<br />
自邸へと戻ってきたマリアは、オリヴィエの笑顔にほっとしたような、泣きたいような気持ちになる。<br />
<br />
マリア「みんな、今回のこと知っていたのね？」<br />
オリヴィエ「……そう、ですね。王太子殿下の想いに、気付いてらっしゃった方は多いかと」<br />
マリア「私、全く知らなかったわ……」<br />
オリヴィエ「お嬢様……」<br />
<br />
どこか、自分だけが置いて行かれたような。<br />
マリアはそんな気持ちでいっぱいだった。<br />
ハインからの言葉も、上手く呑み込めないままだ。彼の言葉は優しかったけれど、一言も「断っていい」とは言わなかった。<br />
王太子と公爵家の縁談。これは紛れもない「政略結婚」で、そこにマリア個人の意思は関係ない。<br />
<br />
マリア「…………」<br />
オリヴィエ「お嬢様」<br />
マリア「なあに？」<br />
オリヴィエ「王太子殿下との婚姻は……、お嫌ですか？」<br />
マリア「……！」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐１</span><br />
Ａ：「……仕方がないことよ」<br />
Ｂ：「正直に言うならば、嫌……なのかもしれないわ」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐１－Ａ</span><br />
Ａ：「……仕方がないことよ」<br />
<br />
マリア「だってそうでしょう？お父様が決めたことだもの」<br />
オリヴィエ「そんな……」<br />
マリア「いいのよ、オリヴィエ」<br />
マリア「それに、王太子殿下に望まれて嫁ぐことができるだなんて、きっと幸せなことだわ」<br />
<br />
それに彼は知らぬ相手でもない。誰とも知れぬ人間を夫にするよりは、よほど幸せになれるはずだ。<br />
ただ、自身の気持ちが付いて来ていない、というだけで。<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐１－Ｂ</span><br />
Ｂ：「正直に言うならば、嫌……なのかもしれないわ」<br />
<br />
マリア「だって、これまで一度だって、ハイン殿下のことを、そんな風に見たことがないのだもの……」<br />
<br />
よく考えれば、公爵家の姫として王太子に嫁ぐ、というのは特段奇異なことではない。<br />
だが、そのことを意識せずに来たのは、国王の妹――当時は王女だった母が、アシュフォード家に降嫁しており、マリアまで王家に嫁げば、この家があまりに王家と近くなってしまう、と危惧されていたからだ。<br />
しかしハインは、それを押してまで、自身を妃にと望んでくれた――。<br />
そのこと自体は「嫌」ではないけれど、これからどう変わっていってしまうのか、それが分からなくて、少し怖い……。<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐終了</span><br />
オリヴィエ「お嬢様……」<br />
<br />
オリヴィエ「そうです。少し気晴らしでもなさったらいかがでしょう？」<br />
マリア「そうね……」<br />
<br />
<br />
<span class="decorationF deco-game">分岐２</span><br />
Ａ：「じゃあ、部屋で刺繍でもしているわ」<br />
Ｂ：「だったら、少し庭を散歩でもしようかしら」<br />
Ｃ：「でも今日は疲れたから、もう休むわね」<br />
<br />
オリヴィエ「わかりました。では、お支度を――」 -- Posted by 桜 〔1138文字〕 No.101 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=101</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=101</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:11:10 +0900</pubDate>
</item>
<!-- One Entry Data for RSS Feed -->
<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 オープニング4 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> オープニング4</span><br />
<br />
//背景：王宮・応接室・昼<br />
<br />
ウィルに連れられ、マリアが辿り着いたのは、国王の私的な応接室だった。<br />
扉の前でウィルと別れ、一人室内に足を踏み入れて、今に至る。<br />
<br />
マリア「アシュフォード公爵家が一女マリアが、国王陛下、並びに王太子殿下にご挨拶申し上げます」<br />
<br />
数年ぶりにこれほど間近で顔を合わせた二人に、マリアが頭を下げると、王太子ハインがパッと立ち上がった。<br />
<br />
ハイン「久し振りだね、マリア！　そう堅苦しくしなくていいよ。さあ、顔を上げて」<br />
マリア「お、お久し振りです、殿下」<br />
ハイン「本当にね。変わりないようで安心したよ」<br />
マリア「はい、殿下も……」<br />
<br />
ハインにどうしてか、ぎゅっと手を握られて、マリアは少々困惑する。<br />
<br />
マリア「あ、あの……。少し近い、ような……？」<br />
ロベルト「ああ、それなんだがな、マリア――」<br />
ハイン「アシュフォード卿」<br />
<br />
ハイン「それは、僕の口から言わせてください」<br />
マリア「？」<br />
<br />
提案にロベルトが頷くと、ハインはもったいつけるように咳払いをしてから言った。<br />
<br />
ハイン「マリア」<br />
マリア「は、はい」<br />
ハイン「僕と君との婚約が、ついに正式に決まった」<br />
マリア「え……」<br />
ハイン「王妹を母に持つ君とは、血が近すぎるんじゃないか、って周囲に渋られていたんだけどね。やっと説得できたんだ。僕の奥さんは君が良かったから」<br />
マリア「え、えっと……」<br />
<br />
突然の事態におろおろしていると、ハインが苦笑しながら握っていた手を離した。<br />
<br />
ハイン「ごめん、突然だったよね。でも、絶対幸せにする。だから、実際に籍を入れるその日までに、ゆっくり心の準備をしてほしい」<br />
マリア「……はい」<br />
<br />
あまりにことに困惑して、マリアはそう答えるので精一杯だった。 -- Posted by 桜 〔741文字〕 No.100 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=100</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=100</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:03:58 +0900</pubDate>
</item>
<!-- One Entry Data for RSS Feed -->
<item>
	<title><![CDATA[ #誓約の姫 オープニング3 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e8%aa%93%e7%b4%84%e3%81%ae%e5%a7%ab" class="taglink" title="誓約の姫">#誓約の姫</a> オープニング3</span><br />
<br />
//背景：王宮・廊下・昼<br />
<br />
マリア（随分と久し振りに来た気がするわ……）<br />
<br />
ロベルトの後を追いながら歩くマリアは、視線だけを動かしながら、周囲を見渡す。幼少期は従兄でもある王太子と遊ぶため、頻繁に訪れていたものだが、ここ数年はさっぱりだった。<br />
<br />
ロベルト「おや。ウィルくんじゃないか」<br />
ウィル「これは、ご無沙汰しております。アシュフォード卿。それから、マリア姫も」<br />
マリア「え、えぇ……」<br />
ウィル「本日はどうなさったのですか、卿？」<br />
ロベルト「いや、実は『あの件』が正式に決まったそうでね」<br />
ウィル「！」<br />
<br />
マリア（……『あの件』？）<br />
<br />
ウィル「……そうでしたか。それは、急ぎ参内されるのも納得です。ですが……」<br />
<br />
ウィルがこちらに視線を向ける。<br />
<br />
ウィル「それならば、いきなり姫同席の元にお話しなさるのは、些か急が過ぎるのでは？　見たところ、姫にはまだ何も仰っていないようですし」<br />
ロベルト「う、うむ……。たしかに」<br />
ウィル「ひとまず、卿だけでお話なされては？　頃合いを見て、俺が姫をお連れしますよ」<br />
ロベルト「…………」<br />
<br />
ウィルの提案に、しばし悩む様子を見せたロベルトだったが、次の瞬間には笑顔で顔を上げた。<br />
<br />
ロベルト「そうだな。では、ウィルくんの言う通りにしよう！　君ならば、安心できる」<br />
<br />
ロベルト「ではマリア、ウィルく――、おっと……、王宮に仕える騎士殿をいつまでも「くん」呼びするのは失礼だった。アルジェリス卿と後から来なさい」<br />
マリア「あっ、お父様！？」<br />
<br />
さっさと立ち去っていったロベルトを、マリアは呆然と見送るしかできなかった。<br />
<br />
マリア「…………」<br />
<br />
マリア「……それで、どうして父を遠ざけましたの？」<br />
ウィル「ん？　何のことだ？」<br />
<br />
先程までとは打って変わり、気安い態度になったウィルに、マリアは肩を竦めた。<br />
<br />
マリア「とぼけるなら……、まあいいです」<br />
<br />
マリア「貴方とも随分お久し振りですね、ウィル様」<br />
ウィル「まあ、ガキの頃とは違うからな」<br />
マリア「そうですね」<br />
<br />
ウィルとは、いわゆる「幼馴染」だ。<br />
とはいっても、狭い貴族社会で年回りの近い、家格も近い子供たちが顔見知りなのは、当然と言えば当然だ。結婚を意識するような年回りに近付くごとに交流は薄くなって、こうして顔を合わせたのは何年ぶりだろう。<br />
<br />
マリア「騎士になった、って聞いてましたけど……。こうしてみると、なかなか板についていますね」<br />
ウィル「まぁな。そういうお前も、すっかり『淑女』だな」<br />
<br />
ウィル「馬子にも衣装？」<br />
マリア「……バカにしてます？」<br />
ウィル「ハハ、冗談冗談。あんま怒んなよ。かわいい顔が台無しだぜ？」<br />
<br />
ぽんぽんと頭に乗せられた手に、ますますムッとする。<br />
<br />
マリア「もう、いっつも子ども扱いして……。それより、そろそろ行かなくて良いのですか？　何の話なのかは知りませんが、私にも関係のあるお話なのでしょう？　あまり、お待たせしては――」<br />
ウィル「…………」<br />
マリア「な、なんですか……？」<br />
ウィル「……いや、なんでも。そんな時期か、って思ってさ」<br />
マリア「え？」<br />
ウィル「なんでもねーよ。行こうか、マリアの言う通り、あんまり陛下をお待たせするのもな」<br />
マリア「あっ、ま、待ってください……！」<br />
<br />
マリア（どういう意味……？）<br />
<br />
しかし、ウィルがその疑問に答えてくれることはなく、あっという間に、国王の待つ部屋へと連れていかれたのだった。 -- Posted by 桜 〔1437文字〕 No.99 ]]></description>
	<link>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=99</link>
	<guid>https://suimennitiruhana.com/draft/?postid=99</guid>
	<category>c0007</category>
	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 15:00:32 +0900</pubDate>
</item>
<!-- One Entry Data for RSS Feed -->
<item>
	<title><![CDATA[ #夢見る少年と未羽化の蝶 ]]></title>
	<description><![CDATA[ <span class="decorationF deco-title"><a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶">#夢見る少年と未羽化の蝶</a><br />
<a href="https://suimennitiruhana.com/draft/?tag=%e5%a4%a2%e8%a6%8b%e3%82%8b%e5%b0%91%e5%b9%b4%e3%81%a8%e6%9c%aa%e7%be%bd%e5%8c%96%e3%81%ae%e8%9d%b6%5f%e4%ba%8c%e7%ab%a0" class="taglink" title="夢見る少年と未羽化の蝶_二章">#夢見る少年と未羽化の蝶_二章</a> 11</span><br />
<br />
　あの後、ファルと再び込み入った話をする間もないまま、夜が明ける。<br />
　この日も、前日とは別の被験者の元へ行くことになっており、ファルと二人エルジュの後を追って、現場へと向かった。<br />
　昨日はかなり安定している被験者だったが、今日訪ねるのは経過観察に注意を払わねばならない対象だそうだった。<br />
　とはいっても、研究所の所員でもない部外者を連れていけるくらいなので、差し迫った何かは無い――と、聞かされていた。<br />
　しかし。<br />
　被験者宅に辿り着いた時、エルジュがドアベルを押すよりも早く、その扉が内側から開いた。<br />
「――エルジュさん！　丁度良かった、今研究所に連絡しようと……！」<br />
　開け放たれた玄関から現れた男性は、エルジュの姿に余程安堵したのか、涙目になっている。<br />
　そんな男の様子に、表情を引き締めたのはエルジュだ。<br />
「何がありました」<br />
「繭が……、息子の繭が、黒く――！」<br />
　息を飲んだエルジュは、慌てて家の中へと駆けていく。<br />
　レンたちも逡巡したものの、玄関先に突っ立っていても仕方がないと、彼の後を追った。<br />
　廊下を幾度か曲がり、部屋へ入る。<br />
　そこには、立ち竦むエルジュと――繭があった。<br />
　だが、昨日見たものとはまるで違う。<br />
　輝くほど真っ白だった繭とは似ても似つかぬほど、そこにあるのは、ダークグレーに黒ずんでいる。心なしか表面もごわついて見えた。<br />
「こんな、急に……」<br />
　呆然とエルジュが呟く。<br />
「――っ、レン、ファル」<br />
　振り向いたエルジュが、レンたちの名を呼んだ。<br />
「貴方たち、魔法は？」<br />
「つ、使えます」<br />
　レンが答え、ファルも隣で頷いている。<br />
「ならば魔素の操作もできますね。来てください、彼を羽化させます」<br />
「えっ！？」<br />
　思わず声を上げたのはレンだけだったが、ファルも驚愕に目を見開いていた。<br />
「で、でも、外から強制的に羽化させるなんて……」<br />
　繭に近付くエルジュの背に問いかけると、彼は立ち止まって振り返る。そして、シャツのカフスボタンを外し、袖を捲った。<br />
「やらねば、彼がそのまま死ぬだけです」<br />
　それだけ言うと、またレンたちに背を向けて、繭の方へ向かった。<br />
　蛹期の蝶の民は非常に繊細――。それを承知の上で外圧をかけるなど、普通ならあり得ない。<br />
　だがエルジュが言うのだから、このまま放置しても中の人間が死んでしまうだけなのだろう。<br />
　それを分かっていても、足が竦んで動かない。<br />
　その時、隣からぽんと肩に手が乗せられる。<br />
「……ファル」<br />
「やろう。僕たちしかいないんだ」<br />
　そんなことを言うファルの手は、小刻みに震えていた。<br />
　当然だ。彼は助けるため<ruby class="decorationR">で<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">な<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby><ruby class="decorationR">い<rp>(</rp><rt>・</rt><rp>)</rp></ruby>繭へ手を加える様を、間近で見ている。<br />
　自分よりも余程、怖いはずだ。<br />
「――そうだな。俺たちがやらなきゃな」<br />
　レンはファルの震える手に、自分のそれを重ねて笑った。<br />
「何をすればいいですか！」<br />
　二人で繭に近付きながら、エルジュに問いかける。<br />
　彼は少しほっとしたように表情を緩めて、繭を指差した。<br />
「まず、揺らさないように手を当てて。それから、魔法を使う時の要領で、中に魔素を流してください」<br />
　頷いて指示に従い、黒ずんだ繭に手を当てる。<br />
　やはり、昨日のものよりごわごわとしていて、生気が薄い気がした。<br />
「――その後はどうすれば？」<br />
　おそるおそる魔素を流しはじめながら問いかける。<br />
「暫くそのままで。これは蛹期の経過を強制的に早める行為です。一定程度魔素を吸収すれば羽化が――、はじまりましたね」<br />
　エルジュが手を離したのに合わせて、レンとファルも繭から手を離す。<br />
　程なくして、パリパリという小さな音と共に、繭にヒビが入る。そして、繭が裂けはじめると同時に、天井に張り付いていた糸が少しずつ剥がれて繭が床にゆっくり着地する。<br />
　そこまで見届けたエルジュは、安堵の息をついてレンたちに手を振った。<br />
「もう大丈夫です。少し離れてあげて」<br />
「は、はい」<br />
　繭の裂け目が大きくなる。<br />
　そして、中からのそりと一人の青年が身体を起こした。<br />
　彼が不思議そうに目を瞬かせると、エルジュがゆっくりと近付いて片膝をついた。<br />
「羽化おめでとう。身体の調子はいかがですか？」<br />
「……えっと」<br />
　ポツポツと青年がエルジュの質問に答えるのを横目に、レンは隣に立つファルの様子を窺った。<br />
「――ファル」<br />
「あ……」<br />
　青白い顔をした彼の手を、暖めるように両手で握りしめる。<br />
「もう終わった。あの子も元気だよ」<br />
「…………うん」<br />
　ファルは力が抜けたように、レンの肩に頭を預けて息をついた。<br />
　そんな彼の頭をよしよしと撫でて、レンもようやく一息ついたのだった。 -- Posted by 桜 〔1951文字〕 No.98 ]]></description>
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	<pubDate>Sun, 01 Feb 2026 14:53:15 +0900</pubDate>
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