六話幼蝶は過去を語る2

 明け方にレンがアカデミーへと侵入した経路を、今度は二人で内側から越える。

 寮の部屋を出た後のファルはずっと無口で、レンはひたすら彼の後をついて歩いていた。

 途中で花を買い、彼はそのまま王都の中心街を外れていく。

 この先にあるのは――、と思い出し、レンは彼の抱える花束を見比べて息を飲んだ。

「ファル……」

 この先にあるのは墓地。

 その中でも、今向かっているのであろう行き先は少々特殊だ。

「着いた」

「『記念墓地』……」

 レンがぽつりと呟くと、ファルは頷いた。

「さすがに知ってるんだな。……ああ、王都出身なら当然か」

 王都の外れに位置する「記念墓地」と呼ばれる共同墓地。レンの目の前にあるのは、無数の名前が刻まれた石碑の数々だ。

 ファルはその名前を辿りながら、ある場所で足を止めた。

「これが祖父。こっちが祖母の名前だ」

 それだけ言うと、ファルは彼らの名前の丁度前に持っていた花束を置いた。

 レンはそれを見て、全ての謎が解けた。何故彼が自分を嫌うのか、その全てが。

 頭を抱えたいような気持ちになったが、それよりもすべきことがある。レンは、跪いて祈るファルの後ろに駆け寄ると、同じように祈りを捧げた。

「…………ありがとう」

 立ち上がったファルがぽつりと言う。

「いや……」

 何と言えば良いか分からなくなって、レンは俯く。目を合わせられずにいると、ファルは小さな溜息をついて言った。

「――少し歩こう」

「……ああ」

 レンは彼に促されるまま、その後をとぼとぼとついていった。

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