「今日はありがとうね」

 すっかり空が赤く染まった頃、すっかりくたびれた様子のルフィアに、ルークは苦笑いしながらそう言った。

「……いえ」

 カフェでの休憩後、また様々な店を回り、最終的にルークが選んだのは表面をキャラメリゼしたデニッシュ――ルフィアの好物だった。

「良かったんですか、わたしの一存で決めてしまって」

「いいのいいの。一緒に町を回れるだけで楽しかったから」

「なら、いいんですけど」

「……ありゃ」

 ついに馬脚を現したと、またルフィアが怒るのかと思っていたルークは不思議そうに首を傾げる。

「やけに素直だね? ――は! ついにオレの魅力に……」

「違います!! もう!」

 食い気味に否定したルフィアだが、少し俯いて溜息混じりに呟く。

「そうじゃなくて。わたし、ずっとこの町に住んでるのに、碌に案内も出来なかったから……」

 ルークは彼女の言葉に困った顔をする。

 たしかに、今日一日の殆どが自分主導で進んでいた自覚はあったからだ。とはいえ、なんだかんだ文句を言いつつ隣をついてきてくれるだけで、本当に楽しかったので、なおのこと返答に困る。

「じゃあ、それは次の機会にしようよ。今度はルフィアちゃんのエスコートを受けるから」

「は……」

「じゃあ、今日はそろそろこの辺でね」

 ぽかんとするルフィアに、にっこりと微笑みかける。

 そして、そうだったとルークは鞄の中から、リボンのかかった包みを取り出す。それを手早く解くと、中から出てきたくすんだピンク色のショールをルフィアの肩にかけた。

「夜は冷えるから、風邪を引かないようにね」

 そして、仕上げとばかりに前に手繰り寄せたショールに、黄色いヒヤシンスとカスミソウの形をしたブローチを留める。

「それじゃあね」

 ルークは軽く手を振りながらルフィアに背を向ける。

「――ちょ、『次の機会』なんて無いですからね!?」

「あははっ」

 我に返ったらしく声を上げた彼女に、ルークは振り返らずに笑った。

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