5章あなたへの誓い
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「っ……」
ネリーは自室に駆け込むと、扉を閉めて誰も入ってこられないように鍵をかけた。
ロアンが「もうどこにもいない」なんて、どうして言えるの……。
どうしようもない苛立ちと、虚しさを覚える。
酷い虚脱感を感じながら、ネリーはふらりと足を踏み出すが、その足はすぐに絡まってしまった。転びそうになり、手近にあった書き物机に手をつく。
「あっ……」
そこには、蓋がかぶさった平たい箱があった。
あの知らせを聞いた日以降、触ることすら出来なくなっていた、ロアンからの手紙を入れたものだ。
机が揺れた反動で傾き、その箱は床へと落ちていく。
かぶせていただけの蓋はすぐに開いて、何十通もの手紙が床に散乱した。
落ちてしまった手紙たち。その光景にネリーは足の力が抜けてしまい、その傍に座り込んだ。見慣れた字が視界に映る。
「ロアン……」
名前を呟くと、あっという間に視界が滲みだした。
あの日から、どんなに悲しくても涙なんか流れなかったのに。
今は、あとからあとから零れ落ちていく。
あなたは、本当にもうどこにもいないの……?
「たすけて、ロアン……」
ぼろぼろと泣きじゃくりながら、ネリーは手紙に手を伸ばした。
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