2章貴女への誓い

 ぴちちち、と鳥の囀りが聞こえる。

「ん……」

 ネリーはふかふかの柔らかなベッドから、もぞもぞと起き上がった。

「まぶし……」

 薄いカーテン越しにも届く朝日に目を眇める。

 どうしてこんなに眩しいのかしら、と首を傾げ――かけて、ハッと目を見開いた。

「今、何時……!?」

 慌ててベッドから降りようと足を踏み出すが、その足は床につくことなく、ぽすんと音をたてて敷布の中に沈んだ。

「あ、」

 そうだった。

 ネリーはゆっくりと周囲を見渡す。

 そこはまだ見慣れたとは言い難い調度で囲まれた、とは言ってもここ数日はずっとお世話になっている部屋。これからもおそらくはずっと、暮らしていかねばならない、ネリーに与えられたノールヴィリニアでの、自室だった。

 わたしは、公爵の元に嫁いで来たのだったわ……。

 品の良い重厚な、だが使い込まれた柔らかみのある調度品は、ノールヴィリニアの歴史を感じさせる。

 初めは、広さやその立派さに慣れなかった。しかし、やっと自分の居場所であるという感覚が、少しづつ追い付いてきたような気がする。

 この広い部屋は本来、夫婦の寝室として使うべき部屋らしい。しかし夫であるはずの人物がこの部屋で眠るのを、ネリーは未だに見たことがなかった。

「夫、か……」

 婚礼が済んでも、夫婦らしいことを何一つしていない。

 このままで良いのだろうか、と不安がよぎった。

「とりあえず、起きないと……」

 寝坊したからといって、怒る父も、不快そうに眉を顰める母も、嫌みを言う妹もいない。

 だからといって、寝坊してよい理由にはならないだろう。婚礼の次の日に、「夫」を放置するなんてことは出来ない。

 ネリーはベッドの端まで辿り着くと、床に足を下ろす。その時、視界の端にあったサイドテーブルに、白い紙片のようなものを見つけた。

 昨夜にはそんなものなかった。あまりの落ち着かなさに部屋をうろうろしていたので、そこには自信がある。

「……手紙?」

 近寄って見てみると、紙切れのように見えたそれは、小さな手紙であることに気付いた。「ロアン」と署名が記された、小さな封筒だ。

 彼の名前以外何も書かれておらず、自分宛なのか、中身を見ても良いのかとネリーは少し迷う。しかし、枕元に置いてあった以上、自身に宛てたものだろうと結論づけ、開封してみることにした。

 ロアンから宛てられた手紙。

 彼は一体いつ、部屋に戻ってきたのだろう。

 勝手に一人で眠ってしまってよいのか判断がつかず、暫く起きていたネリーだが、知らぬ間に眠ってしまっていたのだ。

「昨夜は、こうしゃ――ロアンは、どこでお眠りになられたのかしら……」

Copyright (C) Miyuki Sakura All Rights Reserved.