序章蒼玉(サファイア)の瞳を持つ王妃

 ある年、壮年を迎えた王は、一人の少女を后へと迎えた。

 有力貴族の娘であった少女は、間も無く王子を懐妊し、無事に世継ぎを産み落とした。

 その五年後。王は一人の少年を王宮へと迎え入れた。王の情人に産ませた子だというその少年は、齢は十を迎えていた。


 王妃は突然現れた義息に実息と変わらぬ愛情を向け、二人の仲は良好で、王太子であった彼の弟にあたる王子も、すぐに兄と慕うようになった。


 とくに、見目麗しい、王妃と王子の並ぶ様は絵画のようで、父娘のような王と王妃と違い、十ほどしか離れていない二人は、初々しい恋人のようだと揶揄されたこともあった。実際、母と息子というよりは、姉弟といった関係が長く続いていた。


 王子はすぐに女達に騒がれる青年へと成長した。


 王妃は、男達に狙われるなどといったことは当然なかったが、その美しさは誰もが褒めそやすものであった。

 とくに彼女の持っていた瞳は、一際目を惹くものであった。


 深い、深い蒼の瞳を持つ彼女はいつしかこう呼ばれていた。


―――蒼玉(サファイア)の王妃

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