序章雨が聞いていた誓い

 雨が降っていた。

 国中を包む重いその雨は、心の内から漏れ出た悲しみが雫となって落ちてきているように見える。

 黒いドレスを身に纏い、女は眠る友の頬に手を滑らせた。

「『愛する我が君』……。どうか、安らかに」

 眠る彼は、もう二度とその目を開くことはない。

 葬送の鐘が重く、長く、鳴り響く。

 その音は、国主の訃報を遠く、その果てまで知らせていることだろう。

「――女王陛下」

 静かに沈黙を破ったその声に振り返れば、宰相が立っていた。

 聖堂での二人きりの別れが、もう終わろうとしている。

 女は棺に眠る男から視線を外し、宰相を黒いベール越しに見た。

「スレイ……。貴方は、どこへも行かないでいてくれるかしら」

 彼は物音一つ立てず、その場に跪く。

「――えぇ、この命が尽きるまで。我が麗しき女王陛下」

 外はいまだ雨が降り続いている。

 その雨だけが、厳粛なるその誓いを聞いていた。

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