序章王命

 謁見の間に重苦しい沈黙が続く。

 一段高い所にいる王とその息子、それから部屋の脇にずらりと並ぶ高官たち。

 そんな中で騎士服を身に纏った女が一人、膝をついて国王に頭を垂れていた。

 美しい銀髪は肩から零れ落ち、床に広がっている。俯いた怜悧な美貌と相まって、一枚の荘厳な絵のようにさえ見えた。

「――セレンティーネ」

 王が威厳のある声で女の名を呼ぶ。

「お前をアキュイラの領主に任ずる。国防の要たる()の地を治め、国のために一層その身を賭して尽くすように」

 厳かな宣言にセレンティーネ――セレンは、ぎゅっと拳を握り締めた。

 ――やはり、父上は私を疎んじておられるのか。

 玉座に座る父王を、セレンはアメジストのような鮮やかな紫色をした目だけ動かして睨むように見上げる。

 彼の隣には、自身とは似ても似つかぬ――、だが父とは生き写しにさえ思える容貌の異母弟が立っていた。

 どこか不安げな様子でこちらを見る様が、腹立たしくて仕方がない。

 あそこは、私の居場所だったはずなのに。

 しかし、王命に逆らうことなどできるはずもなく、セレンは更に深く頭を垂れた。

「謹んで、拝命いたします――」

 それでも内心に荒れ狂う怒りの嵐は抑えきれず、唇をギリッと噛んだのだった。

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